システム構築のための調整力向上講座(第12回)断らせて譲歩する「ドア・イン・ザ・フェイス」

コミュニケーション

公開日:2016.09.08

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 ここまで見てきたように、交渉において返報性の原理を利用することの本質は「譲るものをつくり、それを基に相手の譲歩を引き出す」ということです。従って、「譲るもの」をうまくつくることさえできれば、交渉をがぜん有利に進められます。

 このことを利用した交渉のテクニックがあります。「ドア・イン・ザ・フェイス」あるいは「大阪商人方式」などと呼ばれるテクニックです。まず相手が明らかに断ると思われる条件で申し出をして、相手が断った後に譲歩をし、自分が本当の落としどころだと考えている条件で申し出をすることにより、交渉を有利に進めようというテクニックです。

 具体的な例で考えてみましょう。借り主と大家さんとの間で賃貸住宅の家賃交渉をするシーンを考えてみます(図1)。大家さんとの交渉の際、借り主は「月額10万円が精いっぱいだな」と考えているとします。ところが、大家さんは「20万円」と切り出しました。これを聞いた借り主は、「とてもそんな金額は払えない」と当然突っぱねます。

 すると、次に大家さんは「では15万円ではどうか」と5万円下げた金額を提示しました。しかし、まだ予算よりは5万円も高いので、借り主はこれも拒否します。大家さんはしばし沈黙の後、「13万円なら…」とさらに譲歩した条件を提示してきました。これを聞いた借り主は「そこまで譲ってもらえるなら」と承諾しました。結果的に、借り主は当初予算である10万円を上回る13万円を払うことになりました。ところが、実はこの13万円という金額は、最初から大家さんが狙っていた金額だった――。こういう話です。

 最初に相手が明らかに断る不利な条件を提示して、次にそれよりは相手にとって有利な、しかし実は自分が本当に欲しいと思っている条件をそっと差し出すことで相手の譲歩を引き出す。この方法は、返報性の原理にさらに「要求のコントラスト」という性質が加わるため、より強力に人の心理に働きかけます。

 要求のコントラストとは、同じ要求であっても、先により大きな要求を見た後では比較的に小さく見えるという性質のことです。上記例でいえば、13万円という大家さんの要求は、10万円という当初の予算に比べれば大きなものですが、20万円という最初の要求と比較すると相当に小さく見えます。

プロジェクトの交渉現場に当てはめてみる…

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執筆=芝本 秀徳/プロセスデザインエージェント代表取締役

プロセスコンサルタント、戦略実行ファシリテーター。品質と納期が絶対の世界に身を置き、ソフトウエアベンダーにおいて大手自動車部品メーカー、大手エレクトロニクスメーカーのソフトウエア開発に携わる。現在は「人と組織の実行品質を高める」 ことを主眼に、PMO構築支援、ベンダーマネジメント支援、戦略構築からプロジェクトのモニタリング、実行までを一貫して支援するファシリテーション型コンサルティングを行う。

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