ビジネスシーンで役立つ極意(第1回)

「36年全損事故ゼロ」ANAのヒューマンエラー対策

2017.03.30

 「ミスをしない」仕事術がよく語られるが、ANAは違う。その基本は「人である以上、エラーはゼロにはならない」という認識だ。お客様の安全・安心を担う同社では、長年にわたり大きな事故や不具合につながらない仕組みづくりに取り組んできた。その蓄積されたノウハウを体系化したのが、ANAビジネスソリューションが展開する「ヒューマンエラー対策」研修だ。ヒューマンエラーとは、「エラーにより許容範囲を超えてしまった人間の行動や行為の結果」とANAグループでは定義付けている。研修コンセプトや内容について、講師を務める生形茂氏に話を聞いた。

ANAビジネスソリューション株式会社 営業本部 人材・研修事業部 参与 生形茂 氏

ANAビジネスソリューション株式会社
営業本部 人材・研修事業部 参与
生形茂 氏
1973年全日本空輸入社。整備本部勤務。86年、成田空港支店運航機体整備部で一等航空整備士(確認整備士)として機体整備業務に従事。以降、イタリア・ミラノ支店の整備マネージャー、成田メンテナンスセンター運航機体整備部長、ラインメンテナンスセンター副センター長などを務め、2015年より現職。(撮影/三川ゆき江)

 

「ヒューマンエラー対策」研修

 ANA整備部門が実施してきた「ヒューマンファクターズ訓練」をベースにした研修プログラム。ANA整備部門出身の講師が、安全への確かな視点とスキルを持った人材の育成をサポートする。一般的な研修との違いは、エラーそのものを減らす工夫だけでなく、「エラーの影響をコントロールすることは可能」というスタンスから、あらゆる業種・業態に共通する対策を学ぶことができることである。

 現在、世界の商用航空機の全損事故率は、100万回の飛行回数あたり0.32件(2015年 出典 IATA)といわれている。設計・製造・操縦技術が格段に進歩しているからだ。一方で、ほとんど事故は起こらなくなったとはいえ、ゼロにはなっていない。

 「航空機メーカーが過去の何千件という事故の分析をした結果、その要因の8割近くは『ヒューマンエラー』でした。つまり、事故の脅威として最後に残っているのが“人”なのです」と生形氏は語る。

 多くの事故の分析、原因究明の中で“人のエラーをゼロにできない”ことも分かってきたという。

 「ただし、人が小さなエラーを起こしても、大きな事故や不具合につながらないように、その影響をコントロールすることは可能です。このような考え方を理解し、どう対応していけばいいのかをお伝えするのが、この『ヒューマンエラー対策』研修です」(生形氏)

 2002年にスタートした研修は、当初は製造現場を抱えるメーカーが中心だったが、近年では医療業界やIT業界の受講者が目立って増えているという。

日常的に起きている小さなエラーを「エラー」として顕在化させる

 ANAグループでは、ヒューマンエラーを「エラーにより許容範囲を超えてしまった人間の行動行為の結果」と定義付けている。簡単にいえば「人間の行動の結果として意図しないことが起きる」ということだ。

 「言葉だけ聞くと難しい専門用語のようですが、実際にヒューマンエラーにつながる小さなエラーは日常で頻繁に起きていることなのです」と生形氏。ここでいうエラーとは、見間違い、勘違い、思い込み、記憶違いなど。例えば目覚まし時計をかけ忘れても集合時刻に間に合って大事に至らなければ人はそれを「エラー」とは認識しないケースがほとんどだ。

 しかし、たまたま事故や不具合につながったとき、それが「ヒューマンエラー」となってしまう。「皆さん、自分はエラーを起こしていないし、起こさないと思っていますが、まずは“人間誰しもエラーを起こすのだ”と謙虚に受け入れることが、ヒューマンエラー対策の第一歩です」と生形氏は強調する。

 ならば、小さなエラーもゼロにする仕組みが最適解と考えがちだが、生形氏は否定する。「実は、それが不可能なのです。人間の脳の情報処理メカニズムを考えると、エラーは誰もが持っている人間特性の1つ。人間そのものが、エラーを誘引する要因の宝庫なのですから」(生形氏)

 研修では、錯覚やパターン認識の例を出して、1人ひとりにエラーを体験させる。「人間はエラーを起こす存在なのだと認識して、仕事のときには手順書(マニュアルなど)を確かめる。自分の仕事を見直すときには第三者になって(意識を切り替えて)見直す。『私は間違えない』と思って自分の仕事を見直しても見直し(確認行為)にはなりません」と、生形氏は確信を持って語る。

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連載記事≪ビジネスシーンで役立つ極意≫

執筆=横田 直子

執筆=横田 直子

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