読書でビジネス力をアップする(第60回)

“気分”の影響を受けない目的達成術を知る

2020.05.07

クリップについて

FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略
ベンジャミン・ハーディ 著
松丸さとみ 訳

 自己啓発書です。原題を邦訳すると「意志力など役に立たない」になります。「自分を変える上で意志力は役に立たない」とし、代わりに「環境を整えること」の有効性とその方法を紹介します。

 個人的な体験に基づく本ではありません。

 組織心理学者が、神経科学から経済理論まで、さまざまな科学の成果と史実、そして膨大な実績を分析して導き出した行動能力の新説です。人間の能力に関する画期的な理論として、アメリカで発売された後、すぐに重版されました。日本でも話題になりました。自分を変える科学的な方法の指南書といえます。

 能力は、才能や出自、まして意志の強さで決まるものではありません。置かれた状況、すなわち環境で決まるものです。例えば、経済的ステータスは住所で、自分の体重は友だちの体重で決まるなどといわれています。また、引っ越したことで7歳児の識字能力と睡眠時間が変化した例が紹介されます。「孟母三遷(もうぼさんせん)の教え」といいますが、本書はその有効性を科学的に裏付けています。

 さらに「どんな環境が自分をふさわしい人間に変えるのか」「どうすれば、そんな環境がつくり出せるのか」など、具体的な方法にも踏み込みます。成功への洞察が詰まっています。

 読めば、従来の成功法則が間違った俗説であることが分かるはずです。そして、正しい一歩が踏み出せるはずです。その結果、人生が大きく変わるはずです。

 私もそうですが、年初や年度初めに誓いを立てても、すぐに怪しくなります。そのたびに自分の意志の弱さを呪うのでなく、悪いスパイラルを断ち切る方法を知ることで改善できます。著者は「意志の力は筋肉と同じだ」と言います。有限なリソースですから、使えば消耗します。だから、1日が終わる頃には、筋肉と同じように疲弊します。

自ら続けざるを得ない環境に身を置くことの重要性を知る

 夜のつまみ食いや飲酒、時間の無駄遣いを防ぐことが難しい理由はそこにあります。結果、比較的まとまった終業後の時間を無為に過ごしてしまうというわけです。これを防ぐ上で大事なことは「環境」です。中でも、環境に矯正機能を組み込むことです。具体的には、環境に次の要素を組み込むことだと著者は述べています。

 すなわち「お金、時間、気持ちなど、多くをつぎ込む」「社会的プレッシャーを持たせる」「低いパフォーマンスに高い代償があるようにする」「逆境があること」「真新しさがあること」などです。

例えば「多くをつぎ込む」とは「サンクコストの呪縛」を活用することです。これは「投資して所有したものは過大評価してしまう」という経済分野の用語です。資金や労力をつぎ込み続けてしまうと、うまくいっていない事業であっても、なかなか撤退できなくなるものです。これを逆手に取って、自分の原動力になるように、まず投資をしてしまうのです。

 ランニングを続けたいなら、まず「高価なウエアやシューズを買ってしまう」ことをオススメしています。筋トレを続けたいなら「ジムに高額の入会金を払ってしまう」のです。

 そういえば私も、資格に挑戦するときには、まず学校に入学することにしています。理由は色々あるのですが「自分を逃げられなくする」効果は、特に大きいと思います。

 このように、本書は「どうすれば意志力に頼らず、自分のモチベーションを維持し努力を続けられるのか」「そのための環境をどうつくり、維持すべきなのか」、その秘訣を教えてくれます。読めば、自分が変えられない理由を、自分の性格や経験のせいにできなくなるはずです。代わりに、自分をつくるのは環境であることを知り、その正しいつくり方を身に付けることができるはずです。

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執筆=藤井 孝一

執筆=藤井 孝一ビジネス選書WEB

ビジネス書評家、読者数5万人を超える日本最大の書評メールマガジン『ビジネス選書&サマリー』の発行人。年間1000冊以上の書籍に目を通し、300冊以上の書籍を読破する。有名メディアの書評を引き受けるほか、雑誌のビジネス書特集でも、専門家としてコメント。著書は『読書は「アウトプット」が99%』(知的生きかた文庫)のほか、『週末起業』など、累計50冊超、うちいくつかは中国、台湾、韓国でも発刊されている。

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