読書でビジネス力をアップする(第64回)

自分と自分の感情を後回しにしないための思考法

2020.09.03

クリップについて

はい。作り笑顔ですが、これでも精一杯仕事しています。
日野瑛太郎 著
KADOKAWA

 働き方を考える本です。肉体労働、頭脳労働に対して、感情を押し殺して働く「感情労働」の問題を訴え、その対処法を教えます。仕事に押し潰されないための働き手発信の「働き方改革」です。

 職場では、自分の気持ちが後回しになりがちです。特に、サービス業のような接客業では、その傾向が強くなります。お客さまの意向が最優先で、どんなときも笑顔で応対することが求められます。それを「やりがい」と感じる人も多いのですが、程度の問題です。作り笑いを続けていると、疲れ果て、やがて心と体が壊れます。それを避けるために必要な心構えと方法が学べます。

 本書では、まず感情労働が当たり前の日本社会を問題と取り上げます。その上で、感情労働を強要されている人たちに具体的な対処の方法を教えます。特に、最終章の「感情労働に殺されない8か条」はためになりました。「値段相応という価値観」「逃げの選択」「客の事情に深入り厳禁」「半分できれば上出来」などかなり具体的です。

 一貫するのは「他人の前にまず自分を大切にする」というメッセージです。当たり前のことですが、なかなかできていない現実があり、強く心に刺さりました。

 読めば、理不尽な要求をするお客さんはもちろん、わがままな取引先、さらにはむちゃ振りする上司など、サービス業以外の人が遭遇する「感情労働」への対処法も学べます。職場で笑顔や気遣いが強要されている人、言いたいことが言えない人、取引先や上司に我慢しているなど、仕事の対人問題で我慢を強いられている人におすすめします。

疑問を持つこと。考え直すきっかけに!

 「感情労働」が問題になっています。顧客に愛想よくすることは、「当たり前」とされています。まして、今は少しでもネガティブな感情を顔に出せば、ネットに書き込まれかねないです。それ以前に、私たちは「お客さまは神様」と言われて育ってきました。「お客さま第一」で、自分を犠牲に振る舞うことが当然で、疑問も持たずに受け入れてきました。

 しかし、考えてみれば、お客さまはあくまでもお客さまです。対価として払ったお金の見返りをサービスで受け取る人に過ぎません。それ以上でも以下でもなく、まして主従関係などはありません。ところが、反論できないのをいいことに、傍若無人な振る舞いをする人がいます。土下座させられたとか、「死ね」と言われたなど、人権蹂躙(じゅうりん)が記事になることもありますが、ありえないことです。

 かつて、感動サービスがもてはやされました。ノードストロームやリッツ・カールトン、ザッポスなどの神対応が続々とビジネス書になりました。日本の「おもてなし」もこの文脈で語られがちです。

 でも、これが社員の犠牲のもとに成り立っているとしたら本末転倒です。サービスの源泉はあくまでも人件費ですから、本来はその範囲のサービスを提供すれば十分なはずです。そう考えれば、アルバイトにクレーマーの対応をさせたり、身を危険にさらすのを強要したりすることは明らかに間違っています。にもかかわらず、今も多くの人が低賃金で新型コロナウイルス感染リスクにさらされて働く現実があります。

 とは言え、すべてコストで割り切れないのも事実です。実際、お客さまに尽くすことを喜びと感じる人は多くいます。むしろ、サービス業従事者には、そういう傾向の人が多いと思われます。私の業界でも、利益度外視で顧客の相談に乗ることはよくあります。ただ、それは提供者側の気持ちからくるものです。問題は、それを顧客や経営者が強要することです。

 本書を読んで、これまで当たり前と思ってきたサービスや、サービス業従事者と顧客、社員と会社との関係など、いろいろと考え直すきっかけになりました。ぜひ読んでみてください。

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執筆=藤井 孝一

執筆=藤井 孝一ビジネス選書WEB

ビジネス書評家、読者数5万人を超える日本最大の書評メールマガジン『ビジネス選書&サマリー』の発行人。年間1000冊以上の書籍に目を通し、300冊以上の書籍を読破する。有名メディアの書評を引き受けるほか、雑誌のビジネス書特集でも、専門家としてコメント。著書は『読書は「アウトプット」が99%』(知的生きかた文庫)のほか、『週末起業』など、累計50冊超、うちいくつかは中国、台湾、韓国でも発刊されている。

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