戦国武将に学ぶ経営のヒント(第60回)

光秀の処世術(4)現場経験を生かし名経営者に

2020.05.12

クリップについて

 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公・明智光秀をビジネス視点で捉えるこのシリーズ。

 前回までは足利義昭の義昭株式会社、織田信長の信長株式会社で働く社員としての光秀を見てきました。今回は信長株式会社の子会社、光秀株式会社の経営者としての光秀に焦点を当てます。

 1575年、光秀は主君の信長から丹波(現在の京都府の中・北部、兵庫県の中北部、大阪府の一部にまたがる地域)の平定を命ぜられます。5年がかりで任務を達成し、1579年、横山城を改修して福知山城を築城。かの地の経営を始めました。ここから、経営者として光秀は手腕を発揮します。

治水から始まった光秀の領国経営

 築城と同時に光秀がまず手を着けたのが、水害対策です。

 丹波山地東端にある三国岳から、西に向かって由良川が流れています。由良川は福知山付近で南東から注ぎ込む土師川と合流しますが、大雨が降るとこの合流地点付近が氾濫し、度々水害に見舞われていました。

 そこで光秀は福知山城から西北に向かって堤防を築き、由良川の流れを北に付け替えるとともに、氾濫を防ぐようにしたといわれています。堤防には竹を植えて竹やぶを築き、水勢が増しても崩れないようにしました。この跡は今でも残っており、「明智藪」と呼ばれています。

 中国・夏朝の創始者である禹王(うおう)が黄河の治水によって王になったという伝説があるように、治水は古来、領国経営の要。名将・武田信玄も甲斐国に流れる御勅使川(みだいがわ)と釜無川(かまなしがわ)の合流地点に堤防を築き、河川が氾濫を起こさないように整備を行っています。

 まず治水に着手したのは、光秀が優れた領地経営のセンスを持っていたことを表しているといえるでしょう。

 治水で町の基礎を築いた光秀は、次に経済発展を促す策を講じます。地子銭(じしせん)の免除です。地子銭というのは、屋敷に対してかけられていた税のこと。今でいう固定資産税のようなものです。

 光秀は丹波平定に取り掛かるまで京都の奉行役を務めており、徴税も担当していました。戦乱が続く京都で税がどれだけ民の負担になるか、光秀は目の当たりにしていました。しかし、奉行役を務めてはいたものの、京都に対する課税は自分の裁量の下にはありませんでした。そこで、自分が領主になった丹波の地で地子銭を免除し、領民を優遇する政策を取ったのです。

 そして、光秀は丹波の国人衆(こくじんしゅう)を家臣として取り立てて政治を行いました。国人衆というのは、地頭・荘官(しょうかん)などの階層から直接農民層を支配するようになった領主です。半ば独立した存在である国人衆が力を付けると、反乱などが起きる可能性が高まり、領内の不安定要素になります。家臣として取り立てることでそうしたリスクを低めるとともに、地元をよく知る国人衆を臣下に置くことで効率的に経営を行う仕組みを整えました。この辺は、自分自身も信長株式会社の中途採用社員である光秀の人材登用の柔軟性を表しているともいえそうです。

人民の、人民による、人民のための国造りをスタート

 福知山は、度々襲ってくる水害と長く続いた戦乱によって荒廃していました。しかし光秀の一連の施策により発展を遂げ、光秀は善政を敷いた名君として地元で慕われるようになりました。光秀の善政を語り継いだ丹波の人々は、今でも光秀のために祭りを行っています。例えば、福知山では「福知山御霊大祭」、亀岡では「亀岡光秀まつり」といった行事が開催されています。

 子会社社長として、光秀が行ったことを現代の企業経営に置き換えると、業績が右肩下がりだった会社の社内インフラを整備し、人事・採用システムを改善してモチベーションを上げ、会社を成長軌道に乗せることに成功したということになるでしょうか。

 光秀には主君の信長に謀反を起こした反逆の徒というイメージが付きまといますが、優れた領国経営を行った領主というのも間違いなく光秀の1つの側面です。

 光秀は本能寺で信長を討った後、京都の洛中(らくちゅう)でも地子銭の免除を発しています。これは京都での人気取りのためともいわれていますが、裏を返せばそれだけこの政策が福知山で民衆の支持を得たということでもあります。

 光秀が本能寺の変の後、豊臣秀吉に討たれていなかったらどのような君主として日本を統治していたのか。歴史で実現しなかった「もし」として、想像がかき立てられるところです。

 ビジネスパーソンも、子会社への出向や独立開業によって、従業員から経営者へとポジションが変わることがあります。そんなときに、従業員時代の現場経験をどのように生かすかポイントになることがあります。京都奉行時代の経験などを生かして、名経営者となった光秀に学びましょう。

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