弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第59回)パワハラ防止法が成立!企業に求められる対応とは?

法・制度対応

公開日:2019.08.26

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 職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、被害を受けた労働者はもちろん、企業にとっても深刻な問題です。労働者は、人格や尊厳を傷つけられ、仕事への意欲が低下し、心身の健康も悪化します。それによって、休職や退職に追い込まれたり、さらには命にも関わったりするケースもあります。他方、企業(事業主)にとっては、パワハラが発生し、それ適切に対処できなければ、業績悪化や貴重な人材の流出を招いたり、多額の損害賠償責任を課されたりする恐れがありますから、非常に大きな経営リスクといえます。

 こうした状況を踏まえ、2019年5月に労働施策総合推進法が改正され、事業主に職場でのパワーハラスメント対策を義務付けることになりました。改正法は6月5日に公布され、公布後1年以内の政令で定める日に施行されることになっています(中小企業に関しては、3年以内は努力義務)。つまり、大企業は2020年までに、中小企業は2022年までに、事業主は同法の定めるパワハラ対策の措置を講じなければならなくなったのです。

 そこで今回、同法の定めるパワハラの定義と事業主が講じなければならない措置などついて明らかにした上で、事業主がそうした措置を実施する場合の実施手順やポイントについて解説したいと思います。

労働施策総合推進法に定めるパワハラとは

 パワハラという言葉は広く社会に浸透し、昨今、上司からの指導や言動に関するトラブルにおいて日常的に使われるようになっています。ただ、これまでは法律上の概念ではなく、裁判では上司の被害労働者に対する身体、名誉感情、人格権などの侵害を理由とする不法行為(民法709条)や、事業主の労働契約上の安全配慮義務違反として争われてきました。

 それに対して、労働施策総合推進法の改正では、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業関係が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(第30条の2第1項)という項目が盛り込まれました。つまりパワハラの概念が法律上明らかになったのです。

 この規定により、職場におけるパワハラとは、具体的には、以下の3つの要素をすべて満たすものを指すことになりました。

(1)優越的な関係を背景とした、
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、
(3)就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 それぞれについて補足しましょう。まず、(1)の職場での優位性とは、上司から部下の関係が典型ですが、それに限らず、先輩・後輩間、同僚間、さらには部下から上司の関係も含まれます。つまり、職務上の地位に限らず、人間関係や専門知識、経験などのさまざまな優位性が考慮されます。

 (2)は、適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラには該当しないことを示しています。労働者が、上司などから、業務上必要な指示や注意・指導を受け、それを不満に感じたりする場合であっても、それが業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワハラには当たりません。上司は自らの職務・職能に応じて権限を発揮し、業務上の指揮監督や教育指導を行い、上司としての役割を遂行することが求められるのであり、本条項はそのような上司による適正な指導を妨げるものではありません。

 (3)は、当該行為を受けた者が身体的もしくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、または当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。その判断に当たっては、一定の客観性が必要なため、「平均的な労働者の感じ方」が基準となります。

 この点に関して参考になるのは、厚生労働省のパワハラに関するポータルサイト「あかるい職場応援団」です。このサイトでは、以下の6類型が、パワハラの典型例として挙げられています。かなり広範な内容になっていることが分かります。

1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
2)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
5)過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

企業が講じるべきパワハラ対策の措置とは?…

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執筆=上野 真裕

中野通り法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)・中小企業診断士。平成15年弁護士登録。小宮法律事務所(平成15年~平成19年)を経て、現在に至る。令和2年中小企業診断士登録。主な著作として、「退職金の減額・廃止をめぐって」「年金の減額・廃止をめぐって」(「判例にみる労務トラブル解決の方法と文例(第2版)」)(中央経済社)などがある。

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