最近、大きな話題になった芸能事務所の騒動。そもそもの発端は所属するタレントが反社会的勢力(反社)の主催するパーティーに出席したことでした。そこから発展したトラブルは、ついには経営陣の進退問題にまでエスカレートしたことは記憶に新しいところです。
反社会的勢力に関連したリスクは、こうした芸能事務所に限ったことではありません。一般の企業でも気を付けなければならない経営リスクの1つです。今回は反社会的勢力問題について解説します。
すぐに分かる暴力団だけが反社会的勢力ではない
まずは、反社会的勢力とは何を意味するのか、説明できますか。いわゆる暴力団が含まれるのは容易に想像できるでしょう。さらに、暴力団は企業の体裁を装うこともあります(暴力団関係企業、フロント企業などといわれます)。これらの企業は、文字通り、企業を装っているだけですから、もちろん反社会的勢力の中に含まれます。
中には自分たちが暴力団ではないと宣言しているような集団がありますが、実際は暴力団と同様のことをしている場合、これらの集団を反社会的勢力から外すということが適切でないことは明らかです。さらに暴力団ではないものの、暴力団を使うような人もいます(これらの人を暴力団関係者と呼びます)。こうした存在も反社会的勢力に含める方が妥当でしょう。
反社会的勢力という言葉の定義として、以上でお話したような主体の属性から機能的に考える方法を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、反社会的勢力を定義する場合、主体の属性からではなく、暴力的な要素を見せて不当な要求をするような場合を定義に含ませる方法もあります(ただし、例えばお金を返さない人に対して、多少大きな声を上げて返済を迫るような場合もあり、これらすべてを反社会的勢力としてしまうのは危険です)。
最近は、すぐに反社会的勢力とは分からないように活動しているケースも多々あります。冒頭の芸能事務所のケースも、そうした背景があったようです。それだけに反社会的勢力リスクを回避するのは非常に難しくなっています。
反社会的勢力とはあらゆる取引をしない覚悟が必要に!
それでは一般企業が反社会的勢力と接触する可能性が生じるのはどんなときでしょうか。典型例として、繁華街などで店舗営業をしている企業が、反社会的勢力から、いわゆる「みかじめ料」を求められるケースがあります。また、借金を返済してくれなかったり、売掛金を払ってくれなかったりする取引先がある企業に対して「任せてくれれば、債務者から債権を回収してやる」といった甘い言葉をささやく反社会的勢力も見られます。
もちろん、不動産を貸す、車を売る、金融機関口座をつくるといった一般的なビジネスの相手先が反社会的勢力であるケースも考えられます。こうした一般的な取引であっても、相手が反社会的勢力であれば、社会的に指弾されてしまいます。
冒頭の芸能事務所のトラブルでも、タレントは通常の業務のようにイベントに参加したのですが、主催者が反社会的勢力であり、そこからギャラをもらっていたことから、厳しく社会的な責任を問われているのです。つまり基本的には、反社会的勢力とはすべての取引を行わないことが企業には求められています。
それでは、実際に反社会的勢力による被害をどのように防止するのがいいのでしょうか。参考になるのは政府の犯罪対策閣僚会議が、平成19年にまとめた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」です。その内容を参考に防止策を説明しましょう。
同指針では、次の5つを基本原則として挙げています。
○ 組織としての対応
○ 外部専門機関との連携
○ 取引を含めた一切の関係遮断
○ 有事における民事と刑事の法的対応
○ 裏取引や資金提供の禁止
トップの宣言がなにより大切… 続きを読む
執筆=入江 源太
麻布国際法律事務所 代表弁護士
平成10年検察官任官。カリフォルニア州立大学デービス校LLM、隼あすか法律事務所パートナー、パイオニア株式会社インハウス弁護士等を経て現在に至る。主な著作として、『カルテル規制とリニエンシー』(三協法規出版:2014年9月、編著)、『検証判例会社法』(財経詳報社:2017年11月)などがある。
連載記事≪弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話≫
- 第1回 悪質なクレーマーから会社を守るために必要なこと 2015.07.13
- 第2回 「営業秘密」を不当に持ち出されてしまう前に 2015.07.15
- 第3回 御社は大丈夫?ブラック企業と呼ばれないために 2015.07.21
- 第4回 インターネットによる風評被害を防げ! 2015.07.23
- 第5回 派遣社員の採用前に知っておきたい5つのポイント 2015.08.10
- 第6回 「会社でうつ病になりました」と言われないために 2015.08.12
- 第7回 絶対に失敗できない“伝家の宝刀”懲戒解雇のやり方 2015.08.24
- 第8回 育てた社員がライバルに!?競業のリスクを防ぐ方法 2015.08.26
- 第9回 御社はマタハラをしていないと言い切れますか? 2015.09.07
- 第10回 サービス残業が会社を潰す?本当は怖い残業代の話 2015.09.09
- 第11回 登録して終わりじゃない!知的財産の上手な使い方 2015.09.14
- 第12回 定年の延長か廃止か?高齢社員の雇用を考える 2015.09.16
- 第13回 明日は我が身…個人情報を流出させないための第一歩 2015.10.05
- 第14回 税務調査がやってきた…でも怖がる必要はありません 2015.10.08
- 第15回 裁判沙汰になる前に!紛争予防のための弁護士活用術 2015.10.19
- 第16回 良い弁護士の選び方、ダメな弁護士の見抜き方 2015.10.22
- 第17回 「ひな形」の契約書を使い続ける企業は成長できない 2015.11.02
- 第18回 目指せ戦う下請け!言いなりにならない理論武装 2015.12.21
- 第19回 そのアイデア、知的財産権を使って武器にしましょう 2016.01.27
- 第20回 ここまでは自分でできる!弁護士に頼らない債権回収 2016.02.29
- 第21回 これだけは知っておきたい!外国人雇用の注意点 2016.03.28
- 第22回 大卒より大変?高卒の新卒採用で失敗しない方法 2016.04.25
- 第23回 あなたの会社は大丈夫?いじめで経営危機を招かない! 2016.05.23
- 第24回 どの会社でも起こり得る「支配権争い」を防ぐ方法 2016.06.20
- 第25回 もしもの時のために……「事業継承」は計画的に 2016.07.25
- 第26回 まさかの課徴金も!知っておくべき「広告」のルール 2016.08.15
- 第27回 なぜだまされる?中小企業を狙った詐欺・悪徳商法 2016.09.26
- 第28回 「36協定」見直しで残業規制は強化されるか? 2016.10.24
- 第29回 ブラック企業と呼ばれないための3つのポイント 2016.11.21
- 第30回 ネットでの風評被害対策を整理する 2016.12.19
- 第31回 来る「民法改正」のために企業が取るべき対策 2017.01.23
- 第32回 自社サイトのコンテンツが流用された時の対処法 2017.02.20
- 第33回 アルバイトにボーナスは必要?採用前に知るべきこと 2017.03.31
- 第34回 アルバイトの人材確保に「有給休暇」を利用しよう 2017.04.28
- 第35回 120年ぶりの民法改正で何がどう変わるのか? 2017.05.26
- 第36回 「契約社員」を採用する際に気を付けたいこと 2017.06.30
- 第37回 休憩時間中の電話番は労働?拘束時間の基準を知る 2017.07.28
- 第38回 「出張でマイルゲット!自分で使っちゃえ」は横領? 2017.08.25
- 第39回 自社掲載記事の無断利用に注意!著作権を理解しよう 2017.09.29
- 第40回 元従業員が転職先で自社の資料を使うのは違法!? 2017.10.27
- 第41回 取引でトラブル!クレーム書面の効果的な送り方 2017.11.24
- 第42回 育児休業が最長2年に!押さえるべきポイントは? 2017.12.22
- 第43回 参入しやすいECサイトこそ法律面では慎重に! 2018.01.26
- 第44回 「障害者雇用促進法」が改正され、対象範囲が拡大 2018.02.23
- 第45回 事業承継の間口を広げる「経営者保証ガイドライン」 2018.03.30
- 第46回 2020年、改正民法施行!今から万全の備えを 2018.04.27
- 第47回 「遺留分減殺請求制度の改正」が事業承継の後押しに 2018.05.31
- 第48回 割賦販売法改正による加盟店の新しい義務とは? 2018.06.28
- 第49回 トラブルなく防犯カメラを運用するには? 2018.10.29
- 第50回 社員の副業・兼業、どう認める?どう規制する? 2018.11.26
- 第51回 2022年4月から成年年齢が18歳になることの影響は? 2018.12.26
- 第52回 日本版司法取引から身を守るためのポイントとは? 2019.01.28
- 第53回 社員のSNSで会社が炎上!どう防ぐ 2019.02.25
- 第54回 事業承継トラブルを回避する遺言の残し方とは 2019.03.25
- 第55回 絶対確認、年5日以上、有給休暇を取得させよう 2019.04.15
- 第56回 施行迫る民法改正、売買契約への影響を確認 2019.05.22
- 第57回 働き方改革対応に必須、労働者代表を正しく選ぼう 2019.06.19
- 第58回 2020年、改正民法施行で「保証」が変わる! 2019.07.22
- 第59回 パワハラ防止法が成立!企業に求められる対応とは? 2019.08.26
- 第60回 すべての会社に求められる反社会的勢力対策 2019.09.30
- 第61回 2020年法改正!派遣社員を活用するなら対応は必須 2019.10.21
- 第62回 相次ぐ台風や大雨、利用不能でも賃料は支払う? 2019.11.18