弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第66回)

施行直前 派遣労働者の同一労働同一賃金の実務

2020.03.23

クリップについて

 「働き方改革」の目玉の1つである、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目的とした「同一労働同一賃金」。これについて定めた改正パートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法が、2020年4月1日から施行されます(中小企業のパートタイム・有期雇用労働法の施行時期は、2021年4月1日)。

 このうち労働者派遣法の改正は、労働者派遣のビジネスモデルが大きく変わる「労働者派遣法上最大の改正」といえるくらい大きなインパクトのある改正だという評価もあります。パートタイム・有期雇用労働法と異なり、来月1日から中小企業も含めて一律に施行されるので、企業規模にかかわらず、派遣元、派遣先いずれにとっても、その対応は「待ったなし」です。

 そこで今回は、施行直前の「派遣労働者の同一労働同一賃金」について、制度の概要、派遣労働者の待遇を決める2つの仕組み、さらに各仕組みの実施手順について解説します(詳細は、厚生労働省・都道府県労働局「平成30年労働者派遣法改正の概要<同一労働同一賃金>」:以下「概要」参照)。

「派遣労働者の同一労働同一賃金」とは

 労働者派遣法の改正により新たに定められた「派遣労働者の同一労働同一賃金」は、派遣先に雇用される通常の労働者(無期雇用フルタイム労働者)と派遣労働者との間の不合理な待遇差を解消することをめざすものです。具体的な内容は、次の3つです。

1)不合理な待遇差を解消するための規定の整備(法30条の3、法30条の4)
 事業主は、基本給や賞与、手当などあらゆる待遇について、個々の待遇の目的や性質に照らして、不合理な待遇差を設けてはなりません。

2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(法31条の2)
 派遣労働者は、派遣先の正社員の待遇との違いやその理由などについて、派遣元事業主に対して説明を求めることができるようになり、派遣元事業主は、派遣労働者に説明することが義務付けられます。

3)裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備(法47条の4)
 派遣先の正社員との待遇差などに関する職場でのトラブルについて、裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定が整備されました(都道府県労働局による無料・非公開の手続き)。

 このうち1)に関して、不合理な待遇差を解消するための派遣労働者の待遇を決定する仕組みは2つあります。以下では2つの仕組みについて概観し、それらの実施手順を見ることにします。

派遣労働者の待遇を決める2つの仕組み

 派遣労働者の就業場所は派遣先なので、賃金などの待遇に関して派遣労働者の納得感を得るためには、派遣先の労働者との均等(=差別的な取り扱いをしないこと)、均衡(=不合理な待遇差を禁止すること)が、原則として求められます(【派遣先均等・均衡方式】、法30条の3第1項・第2項)。

 ただ、この原則を貫くと、派遣労働者は、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、派遣労働者の所得が不安定になることが想定されます。例えば、非常に賃金の高い会社から、そうではない会社へ派遣先が変わったときに、派遣労働者自身は経験・能力、キャリアを蓄積しているのに、派遣先の正社員の賃金が下がることによって自身の待遇が下がるということになりかねません。これでは派遣労働者の継続的・体系的なキャリア形成の要請に反します。

 そこで、上記原則の例外として、派遣元において、一定の要件を満たす労使協定によって待遇を決めることが認められました(【労使協定方式】、法30条の4第1項)。

 このように、労働者派遣法の改正により、派遣元事業主には、派遣労働者の待遇決定方式として、【派遣先均等・均衡方式】か【労使協定方式】のいずれかを採用することが義務化されました。なお、各方式のより詳しい内容は、厚生労働省「働き方改革 特設サイト」に掲載された動画「同一労働同一賃金(派遣労働者編)」(https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/same.html)が分かりやすいです。ここでは、改正労働者派遣法が施行直前であることから、各方式について、それぞれの実施手順について見ていきます。

派遣先均等・均衡方式の実施手順

 派遣先均等・均衡方式における派遣労働者の待遇改善までの流れ、すなわち実際手順は、次の通りです。なお、<派遣元>とあるのは「派遣元が講ずる措置」を、<派遣先>とあるのは「派遣先が講ずる措置」を指します。

※1 「比較対象労働者」の意義や提供する「待遇に関する情報」などに関しては、概要6ページ以下を参照してください。また、厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html)(以下、本サイト)の「派遣先均等・均衡方式(労働者派遣法第30条の3)について」欄にある「様式集(派遣先均等・均衡方式)」の箇所に、「比較対象労働者の情報提供の例」としてフォーマットが掲載されているので参考にできます。
※2 同欄の「様式集(派遣先均等・均衡方式)」の箇所に、「労働者派遣契約(例)」としてフォーマットが掲載されています。派遣元事業主は、派遣先から情報提供がないときは、派遣先との間で労働者派遣契約を締結してはいけません。
※3 同欄の「様式集(派遣先均等・均衡方式)」の箇所に、「モデル就業条件明示書」としてフォーマットが掲載されています。

労使協定方式の実施手順

 他方、労使協定方式における派遣労働者の待遇改善までの流れ、すなわち実際手順は、次の通りです。

※4 2020年度適用のものは、本サイト「労使協定方式(労働者派遣法第30条の4『同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準』について)」の欄にある、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和2年度適用)」で確認できます。
※5 同欄の「Q&A」の箇所に、「労使協定のイメージ」としてフォーマットが掲載されています。
※6 同欄の「様式集(労使協定方式)」の箇所に、「待遇に関する情報提供」としてフォーマットが掲載されています。
※7 同欄の「様式集(労使協定方式)」の箇所に、「労働者派遣契約(例)」としてフォーマットが掲載されています。
※8 同欄の「様式集(労使協定方式)」の箇所に、「派遣労働者を雇い入れようとするときの明示(例)」としてフォーマットが掲載されています。
※9 同欄の「様式集(労使協定方式)」の箇所に、「労働者派遣をしようとするときの明示(例)」としてフォーマットが掲載されています。
※10 同欄の「様式集(労使協定方式)」の箇所に、「モデル就業条件明示書」としてフォーマットが掲載されています。

その他の留意点

 派遣元は、待遇決定方式について、派遣労働者、派遣先などの関係者に情報提供する必要があります。具体的には、<1>労使協定を締結しているか否か、<2>(労使協定を締結している場合には)労使協定の対象となる派遣労働者の範囲と、労使協定の有効期間の周期について、常時インターネットなどで情報提供する必要があります。

 以上の通り、各方式とも、それぞれの実施手順を遵守して対応することが求められます。かなり手間になるので、派遣先とよく相談して実行する必要があります。いずれの方式によるかは各企業の実情などによると思いますが、【派遣先均等・均衡方式】では、比較対象労働者の待遇に変更があったときは、その都度、変更部分について派遣先から派遣元に待遇状況を提供し、それに応じて派遣元では派遣労働者の待遇について検討しなければなりません。そのため、派遣先が義務を遵守することは、それなりの負担になると考えられますから注意しましょう。

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執筆=上野 真裕

執筆=上野 真裕

中野通り法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)
平成15年弁護士登録。小宮法律事務所(平成15年~平成19年)を経て、現在に至る。主な著作として「退職金の減額・廃止をめぐって」「年金の減額・廃止をめぐって」(「判例にみる労務トラブル解決の方法と文例(第2版)」)(中央経済社)などがある。

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