前編では2021年1月から3月末までに施行される予定の改正法令について解説しました。今回の後編では2021年4月以降に施行される予定の改正法令についてご紹介します。さらに、今回は触れませんが、介護保険法、割賦販売法についても2021年中に改正が予定されています。これらの施行日は未定ですが、関係する業務を取り扱っている企業・団体は注意を払っていただければと思います。
高齢者雇用安定法関係(2021年4月1日施行予定)
改正の概要
・高齢者の就業機会の確保・就業の促進
65歳から70歳までの高年齢者の就業機会を確保する措置(定年引き上げ、継続雇用制度の導入、定年廃止、労使で同意した上での雇用以外の措置(継続的に業務委託契約する制度、社会貢献活動に継続的に従事できる制度)の導入のいずれか)を講じることが企業の努力義務として定められます。
・複数就業者などに関する公表義務
労働者数300人超の大企業は、中途採用者の割合を定期的に公表することが義務付けられます。
改正による影響、注意点
これらと関連して、雇用保険制度において、65歳までの雇用保険措置の進展などを踏まえて高年齢雇用継続給付を令和7年度から縮小するとともに、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置の導入などに対する支援を雇用安定事業に位置付ける、とされています。
意匠法関係(2021年4月1日施行予定)
改正の概要
・複数意匠一括出願制度の導入
意匠ごとに願書を作成するのではなく、複数の意匠をまとめた願書も作成できるようになります。
・物品区分の扱いの見直し
物品区分表が廃止され、同表の中から1つの区分を選択するのではなく、経済産業省令に設けられる基準に従った「一意匠」として出願することになります。
・手続救済規定の拡充
指定期間の経過後であっても、その延長を請求できるようになります。優先期間の経過後であっても、正当な理由があれば、優先権の主張を伴う出願ができるようになります。また、優先権証明書の提出がされなかったとき、特許庁長官は出願人に対して、注意喚起のための通知をしなければならないことになります。
改正による影響、注意点
従前よりも意匠登録が容易となるため、製品デザインなどを扱う企業にとっては有利な改正といえます。
パートタイム・有期雇用労働法関係(2021年4月1日から中小企業にも適用)
改正の概要
既に施行済み(2020年4月)ですが、中小企業には2021年4月1日から適用されます。
・不合理な待遇差の禁止
基本給や賞与、各種手当などのあらゆる待遇について、同一企業内での正社員と非正規労働者との間における不合理な待遇差が禁止されます。これについては、ガイドラインが公表されており、どのような待遇差が不合理と考えられるか、例示されています。
・労働者への待遇に関する説明義務の強化
非正規労働者から正社員との待遇差の内容や理由などについて説明を求められた場合、事業主は説明義務を負うことになります。労働者からの納得を得られるよう、分かりやすい説明に努める必要があるでしょう。
・行政による事業主への助言・指導などや裁判外紛争解決手続(ADR)の整備
都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続を行うこととされています。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても対象となります。
改正による影響、注意点
パートタイム労働者・有期雇用労働者を雇用している中小企業においては、自社の状況が改正後の法の内容に沿ったものであるか否か、点検が必要です。専門家と適宜相談しながら、施行日までに必要な準備を進める必要があります。
※このほか、2021年4月1日には労働者派遣法や厚生年金保険法の一部改正法令も施行されますが、本記事では割愛いたします(前者は派遣元企業、後者は国民年金に加入している外国人が対象です)
個人情報保護法関係(施行時期未定)… 続きを読む
執筆=福原 竜一
虎ノ門カレッジ法律事務所 弁護士
平成21年弁護士登録。企業法務および相続法務を中心業務とする。主な著作として、「実務にすぐ役立つ改正債権法・相続法コンパクトガイド」(編著:2019年10月:ぎょうせい)がある。2019年8月よりWEBサイト「弁護士による食品・飲食業界のための法律相談」を開設し、食に関わる企業の支援に力を入れている。https://food-houmu.jp/
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