えとの山を訪ねるのは“遊び心のある山の登り方”として、登山者に人気です。えとの山とは、山名に十二支に数えられる動物の字が使われている山のこと。その年の初登山をえとの山にしたり、各えとの山の最高峰に登ったり、年賀状の図柄にしたりと、いろいろな楽しみ方が考えられます。今回は、もうすぐやってくる来年のえと、「牛(丑)」の山に注目してみましょう。

北アルプスの中心部にある赤牛岳。牛の山の最高峰だ
農業と関わりが深い牛の山
来年のえとである「丑」の字を持つ山はありませんが、牛岳、牛伏山、牛首山など「牛」の山は全国各地にたくさんあります。『日本山名事典』(三省堂)によると、その数は96山。十二支の中で、午(馬・駒)の201山、辰(龍・竜)の195山に次いで3番目と選択肢も多いため、比較的訪れやすいかもしれません。
牛の字を含んだ山名が多いのは、農業が中心だった昔の生活では牛が身近な動物だったからかもしれません。それぞれの山名の由来を調べてみると、「牛が寝そべっている形に似ている」「牛の首筋のように細く切れ落ちた尾根」など、牛の姿になぞらえたものが多いようです。ちなみに午(馬・駒)や辰(龍・竜)の山名が多いのも農耕中心の日本の文化が影響しているといわれています。中でも辰に関しては、雨乞い信仰の神様とされる竜神と関連すると考えられています。
北海道は“牛”の山の宝庫
北海道には「鬼斗牛山(きとうしやま)」「於兎牛山(おそうしやま)」「背谷牛山(せたにうしやま)」など、牛の字を含んだちょっと変わった山名がたくさんあります。中には「喜登牛山(きとうしやま)」という、いかにも登ってみたくなるような名前の山も存在しています。
なぜ北海道に牛の山が多いのかというと、アイヌ語の読みに漢字を当てはめたからだそうです。動物の「牛」でははなく、アイヌ語で「〇〇な場所」「〇〇がたくさんある場所」という意味の「ウシ」が由来だといいます。前述の「キトウシ」はアイヌネギ(ギョウジャニンニク)が群生する所、「オソウシ」は滝がある所を意味しています。「ウシ」という表記のままなのが日本百名山で唯一のカタカナ表記の山、北海道の中央部に位置する大雪山系の「トムラウシ山」です。「トムラウシ」も、ミズゴケが多い所というアイヌ語由来だそうです。

トムラウシ山(2141m)は大雪山国立公園内にあり、登山難易度の高い天上の山
最高峰は北アルプスの赤牛岳… 続きを読む
執筆=小林 千穂
山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どものころに山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、現在はフリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』『ワンダーフォーゲル』など登山専門誌に多数寄稿するほか、山番組にも出演。著者に『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)などがある。2014年に南米のチンボラソ(6310m)に登頂。
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