実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第34回)

経営者に贈る質問編 失敗してでも努力してほしい

2018.09.12

クリップについて

 実例からドラッカーのマネジメントを学ぶ連載。今回は、佐賀県で学習塾を運営するNES(ネス)が取り組んだ「主体性を持って仕事をする」組織のつくり方を紹介する。保護者の声をきっかけに学習塾に対するニーズが多様化していることを知り、それまで漂っていた社内の閉塞感を打開するきっかけをつかんだという。社内を改革すべく手に取ったのは、ドラッカーの著作『経営者に贈る5つの質問』だった。

 「組織は一つの目的に集中して、初めて成果をあげる」 (『ポスト資本主義社会』)

 多くの経営者が、社員に「主体性を持って仕事をしてほしい」と訓示する。しかし、その言葉だけで社員が自ら考え行動するようにはならないことも、自らの体験から知っている。

 社員が主体性を発揮できない組織は、たった1つの決定的な条件が欠けている。それは、明確に絞り込まれた目的。使命ないしミッションとも言い換えられる。

 ドラッカー教授は「組織は道具である。…中略…したがって、目的すなわち使命が明確であることが必要である。組織は一つの使命しかもってはならない。さもなければ、組織のメンバーは混乱する」(『ポスト資本主義社会』)とした。

 主体性は一定の方向を与えられて、初めて成果に結びつく。

 NES(ネス、佐賀県多久市)の南里(なんり)社長は『経営者に贈る5つの質問』を用いて、組織を方向付けた。特に大きな変化をもたらしたのが、第3の質問の「顧客にとっての価値」、そして第4の質問が問いかける「成果」の定義だ。

 5つの問いに向き合った南里社長は、学習塾の成果を「学力アップによる志望校合格」と捉えるのをやめた。生徒が「目標に向かって努力する体験」を通じ、「明日の自分が楽しみになる」ことが、自社の成果なのだと捉え直した。経営者が成果の定義を変えれば、社員の働き方はおのずと変化する。
(ドラッカー学会理事=佐藤 等)

ドラッカーに学んだ先輩企業(19) NES(ネス) 前編

NESの南里社長。2005年、20代半ばで英語塾を立ち上げた

 「別にうちの子が志望校に合格しなくてもいいんです」――予期せぬ顧客の声にハッとした。

 NESの南里洋一郎社長は、佐賀県内に2教室を持つ学習塾の経営者。2010年、全生徒約130人の保護者との個別面談を開始した。そこで想定外の本音を知る。

 「うちの子は今、『この高校に行きたい』という一心ですごく頑張っています。それなら受からなくてもいいから、自分で決めたことを全力でやり切らせたい」

 1人、2人の意見でなく、多くの人が同じ希望を口にした。

 学習塾に対するニーズは「志望校合格」「成績アップ」だとばかり思っていたが、実は違った。保護者は何より、目標に向かって頑張るわが子の姿が見たいのだ。実際、その体験は子どもの人生において大きな価値を持つだろう。

 南里社長は社内の閉塞感を打破する糸口をつかんだ気がした。

言われたことしかしない

 南里社長が郷里の多久市に「南里英語教室」を開いたのは05年。

 大学卒業後、カナダに1年渡航。ウエーターのアルバイトで持ち前のコミュニケーション力を発揮し、時給の3倍近いチップを稼いだ。

 そんな南里社長から見ると、日本人には英語の知識はあっても、話したいことや度胸がなくてまごつく人が目立った。そんな現状を変えようと、子ども向けの英語教室を開業することを思い立った。

 帰国後、大手学習塾に教室長として約2年勤務。生徒の純増数で約200教室あった九州地区でトップに立ち、自信を得て起業した。

 だが、最初にチラシなどで集められた生徒は2人。ここで前職の教室長時代の教訓を生かし、考えた。「商品は先生。今の生徒の評判が、新しい生徒を連れてくる」

 文化祭など、塾の生徒が通う学校の行事に片っ端から顔を出した。生徒と親しく話していると、ほかの生徒や保護者からも声がかかる。それが糸口になって、口コミで生徒が増え始めた。

 08年には教室を拡張移転。教える科目も英語だけから5科目に増やしていき、社員を新卒採用で2人、中途で1人採用。組織としての体制を整えていった。

 ここで大きな壁にぶつかる。

 組織が回らない。

 社長の自分が指示を出さないと社員が動かない。電話が鳴れば取る。生徒が来れば授業をする。生徒と雑談もする。ただ自発的にできるのはせいぜいここまで。

 主体性を育もうと、社員には授業のほか、広報やイベント企画といった担当を持たせた。だが実際には、社長が「今年のハロウィーンには、こんなパーティーをやろう」などと切り出さないと、何も始まらない。

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佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

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