プロ野球に学ぶ、組織の力を伸ばした男たち(第6回)現有戦力を生かし2年目に結果を出す梨田昌孝の手腕

人材活用

公開日:2018.01.25

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 2004年、大阪近鉄バファローズはオリックス・ブルーウェーブに吸収合併される形で歴史に幕を下ろした。当時、12あったプロ球団の中で「日本一になっていないただ1つの球団」だった。

 バファローズの前身が設立されたのは1949年。近鉄パールスというチーム名で1950年シーズンから参戦した。しかし戦績は下位に沈むばかりで、1961年にはシーズン最多敗戦記録となる103敗を喫するなど、長らくプロ野球界ではお荷物球団といわれていた。

 そんな弱小球団であったバファローズを、リーグ優勝に導いた3人の監督がいる。1979年、1980年の西本幸雄(にしもとゆきお)氏、1989年の仰木彬(おおぎあきら)氏と、2001年の梨田昌孝(なしだまさたか)氏である。

 バファローズとして最後のリーグ優勝を果たした梨田氏は、前年最下位という状況で指揮を託された。そして、就任1年目の2000年も最下位に甘んじたものの、2年目には優勝を果たした。梨田氏は、チームの戦力を正しく分析し、戦力にあった戦術を2年目に採用したことで、最下位から一転、優勝を勝ち取ったのだった。

選手時代は、おだてて、励ますキャラクター

 野球において捕手というポジションは、その役割から、守備、走塁、投球、打撃と野球のすべてにその視野を広げ、情報を収集、分析、行動しなければならない。その視野の広さは、監督としての仕事に通じるものがある。実際、野村克也氏、上田利治氏、森祇晶氏など、捕手出身監督には名将が多い。

 梨田氏もまた、現役時代、近鉄で捕手として活躍した。守備面だけでなく、打者としても、2桁本塁打を放つそれなりの長打力を持ちながら、3割近い打率も残し、捕手としては上々の成績を上げ、オールスターにも6度選ばれた。当時のパリーグを代表する捕手の1人といっても差し支えはない。

 ただ、最も出場試合数が多かったシーズンでも、118試合にとどまった。当時の近鉄にはもう1人の主力捕手として有田修三氏がいたからだ。成績も実力も高いレベルで拮抗していた2人は「ありなしコンビ」と呼ばれ、「2人とも他球団に行けばフル出場間違いなし」「近鉄には正捕手が2人いる」と恐れられた。

 正捕手を1人に絞れなかった理由は実力が拮抗していたためだけではない。通算317勝を挙げることになる当時の大エース、鈴木啓示氏との関係も大きく影響した。鈴木投手は梨田氏ではなく、有田氏を専属捕手に指名していたのだ。

 「なぜ、自分ではダメなのか?」と、梨田氏は鈴木氏に直接尋ねた。

 鈴木氏はこう答えたという。「ナシ、ワシはアカンのよ。妙におだてられたり、励まされたりしたらアカンのや。例えばゲーム前、ブルペンで仕上げの投球練習をするやろ。そのとき、ボールが走っていなくてもナシは『いいですよ、大丈夫ですよ』とか言うてくれる」

 常に投手を立て、ふがいない投球をして負けてもその責任は自分が取るというスタンスの梨田氏に比べて、有田氏は気が強い。投手がダメなときは、ダメだとはっきり言う。その言葉に鈴木氏は「何を!」と頭にくるが、それをエネルギーに変えていた。梨田氏が技術面で劣るということではなく、あくまでも相性から有田氏を指名していたのだ。

 「選手をおだてて、励ます」という鈴木氏の評価は、梨田氏のキャラクターをよく言い当てていた。投手に寄り添い、盛り立てる梨田氏は、チームの誰からも愛され、信頼され、一目置かれる魅力にもつながっていた。

1年目は自分のやりたい野球で最下位に…

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執筆=峯 英一郎studio woofoo

ライター・キャリア&ITコンサルタント。IT企業から独立後、キャリア開発のセミナーやコンサルティング、さまざまな分野・ポジションで活躍するビジネス・パーソンや企業を取材・執筆するなどメディア制作を行う。IT分野のコンサルティングや執筆にも注力している。

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