記者としては、「発表モノ」や「発生モノ」であっても、なんとか付加価値を付けたいところです。こうした場合に使うのが、幾つかの共通ネタを集めて1つの記事にする「傾向モノ」「まとめモノ」と呼ばれる手法です。
例えば、食品メーカーが2~3社、値上げを発表したとします。それぞれはせいぜい「ベタ」か「段モノ」のニュースですし、書いても「発表処理」でしかないので社内でも評価されません。そこで、「最近、食品の値上げが相次いでいる」という「まとめモノ」に仕立てるわけです。買い物に行けなかった日に、冷蔵庫にある有り合わせの材料で料理を作るのに似ているかもしれません。
意外性があって面白いまとめモノは、世間で話題になって他紙も追わざるを得なくなります。こうした記事では、なぜそのような現象が起きるのかといった背景も解説するため独自性や付加価値が生じますし、バラバラのニュースの共通性に気付くセンスも必要とされます。このため、内容によっては他紙が後追い記事を掲載するなどし、スクープ並みに評価されることもあります。
新聞社や記者にとってまとめモノが重要なもう1つの理由は、紙面を埋めるのに都合がいいという点にあります。これは、まとめモノが長い記事にしやすいということと、「腐らないネタ」であることが理由です。
大きなニュースのない日には…… … 続きを読む
執筆=松林 薫
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。
関連のある記事
連載記事≪情報のプロはこう読む!新聞の正しい読み方≫
- 第1回 新聞、読めていますか?(上) 2018.07.26
- 第2回 新聞、読めていますか?(下) 2018.08.30
- 第3回 ネットユーザーこそ「紙の新聞」を読もう(上) 2018.09.27
- 第4回 ネットユーザーこそ「紙の新聞」を読もう(下) 2018.10.25
- 第5回 魚の鮮度は「眼」で分かる。新聞は?(上) 2018.11.22
- 第6回 魚の鮮度は「眼」で分かる。新聞は?(下) 2018.12.20
- 第7回 紙面にニュースの「格付け」があるって知ってます?(上) 2019.01.24
- 第8回 紙面にニュースの「格付け」があるって知ってます?(下) 2019.02.21
- 第9回 「超弩級ニュース」の見出しは?(上) 2019.03.18
- 第10回 「超弩級ニュース」の見出しは?(下) 2019.04.18
- 第11回 新聞記事をネットで読むと見えなくなるもの 2019.05.23
- 第12回 芸能ニュースは「扱い」に注目 2019.06.20
- 第13回 月曜日の朝刊に特ダネは載らない?(上) 2019.07.18
- 第14回 月曜日の朝刊に特ダネは載らない?(下) 2019.08.22
- 第15回 「検討に入った」と「方針を固めた」の違い(上) 2019.09.19
- 第16回 「検討に入った」と「方針を固めた」の違い(下) 2019.10.17
- 第17回 「飛ばし記事」でも「誤報」とまでは言えない(上) 2019.11.21
- 第18回 「飛ばし記事」でも「誤報」とまでは言えない(下) 2019.12.19
- 第19回 「政府首脳」って誰のこと?(上) 2020.01.23
- 第20回 「政府首脳」って誰のこと?(下) 2020.02.20
- 第21回 「記事の信頼性」を判断する最も簡単な方法(上) 2020.03.19
- 第22回 「記事の信頼性」を判断する最も簡単な方法(下) 2020.04.16