記事には、一般に「5W1H」と呼ばれる要素のほとんどが盛り込まれます。「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」といった情報です。
その中で意外に読み飛ばされているのが「WHO(誰が)」ではないでしょうか。
新聞記事のWHOで重要なのは、「当事者」「取材源」という2つの要素です。当事者とは、殺人事件でいえば容疑者や被害者、警察や目撃者などです。しかし、記事を読み解く上では、「当事者が誰か」と同じくらい、「誰がニュースソースなのか」も重要になります。
記者は必ず何らかの情報源から話を聞いて原稿を書くわけですが、それが誰かということは内容の信頼性や、政治的なバイアスを判断する上で極めて重要だからです。
問題は、日本の新聞では情報源の匿名性がかなり高く、一定の知識を持っていなければ読者には分からなくなっているということです。
例えば、「政府首脳は◯日、記者団に対し〜であることを明らかにした」といった記事を見たことがあるのではないでしょうか。
この場合の「政府首脳」は、先ほどの2要素の両方を兼ね備えています。つまり「当事者」であると同時に「情報源」でもあるわけです。
つまり、これが「誰か」が分からなければ、情報の価値の半分くらいは得られないことになります。ただ、多くの人は「ああ、政府のエライ人が何かしゃべったんだな」と、その正体についてあまり詮索せずに読み飛ばすのではないでしょうか。
もちろん、「政府のエライ人」でも記事の大意は理解できます。それで十分だという人もいるでしょう。しかし、これが「首相」なのか「大臣」なのか「どこかの省のトップ」なのかで、語った内容の重みや政治的ニュアンスは全く変わってきます。
もし「政府の動きの先を読む」といった目的で新聞を読むのであれば、こういう曖昧な理解では不十分なのです。
「政府首脳=首相」という可能性もあるが……… 続きを読む
執筆=松林 薫
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。
関連のある記事
連載記事≪情報のプロはこう読む!新聞の正しい読み方≫
- 第1回 新聞、読めていますか?(上) 2018.07.26
- 第2回 新聞、読めていますか?(下) 2018.08.30
- 第3回 ネットユーザーこそ「紙の新聞」を読もう(上) 2018.09.27
- 第4回 ネットユーザーこそ「紙の新聞」を読もう(下) 2018.10.25
- 第5回 魚の鮮度は「眼」で分かる。新聞は?(上) 2018.11.22
- 第6回 魚の鮮度は「眼」で分かる。新聞は?(下) 2018.12.20
- 第7回 紙面にニュースの「格付け」があるって知ってます?(上) 2019.01.24
- 第8回 紙面にニュースの「格付け」があるって知ってます?(下) 2019.02.21
- 第9回 「超弩級ニュース」の見出しは?(上) 2019.03.18
- 第10回 「超弩級ニュース」の見出しは?(下) 2019.04.18
- 第11回 新聞記事をネットで読むと見えなくなるもの 2019.05.23
- 第12回 芸能ニュースは「扱い」に注目 2019.06.20
- 第13回 月曜日の朝刊に特ダネは載らない?(上) 2019.07.18
- 第14回 月曜日の朝刊に特ダネは載らない?(下) 2019.08.22
- 第15回 「検討に入った」と「方針を固めた」の違い(上) 2019.09.19
- 第16回 「検討に入った」と「方針を固めた」の違い(下) 2019.10.17
- 第17回 「飛ばし記事」でも「誤報」とまでは言えない(上) 2019.11.21
- 第18回 「飛ばし記事」でも「誤報」とまでは言えない(下) 2019.12.19
- 第19回 「政府首脳」って誰のこと?(上) 2020.01.23
- 第20回 「政府首脳」って誰のこと?(下) 2020.02.20
- 第21回 「記事の信頼性」を判断する最も簡単な方法(上) 2020.03.19
- 第22回 「記事の信頼性」を判断する最も簡単な方法(下) 2020.04.16