人気会計士が語る、小さな会社の経営“これだけ”(第14回)

M&Aなどの持ち込み案件には要注意

2019.12.06

クリップについて

 顧問先2200社を抱える会計事務所を率いる公認会計士、古田土満氏が語る小さな企業の経営のコツ。その第14回は、コンサルタントや金融機関から持ち込まれるM&Aなどの案件への警報です。そうした案件に安易に手を出すと痛い目に遭うと、古田土氏はアドバイスします。

内密に進めようとするコンサルタントに注意

 もうけ話と同様、経営者が気を付けなければならない持ち込み案件があります。社長の使命は、社員とその家族を守るために会社を存続させることです。そのためには、後継者を育成したり、株式の対策を打ったりしなければなりません。そこで、さまざまな問題が起きてくるのです。

 これから私が書くことは、現実に起きたことです。お客さまがM&Aでだまされて会社が乗っ取られそうになったため、気を付けてくださいという話です。

 私どものお客さまであるA社は、時代の流れの中で業績の見通しも悪く、後継者もいないため銀行さんにM&Aの依頼をしました。しかし、その業界内で買い取ってくれる会社は見つかりませんでした。

 私は財務顧問としてA社の社長さんの相談に乗っていましたが、ある年の6月の初めに「買い取り会社が見つかり、契約が成立しました」と報告を受けました。M&Aの仲介会社から話があり、約1カ月の交渉で決まったと聞きました。そして7月上旬にその社長さんから電話があり、「このM&Aは会社の乗っ取りで詐欺だ、至急相談に乗ってくれ」という依頼がありました。

 事実関係を聞くと、M&A仲介会社を紹介したのは、A社の金融コンサルタント。売買契約にあたり、仲介会社は秘密保持を理由にして、A社には弁護士にも顧問税理士にも相談させませんでした。仲介会社を紹介した金融コンサルタントは、契約書の内容のチェックもしていなければ、買い取り会社の財務内容もチェックしていなかったのです。

 私が社長さんから聞いた話では、契約日の6月10日までに、何度請求しても買い取り会社は決算書を出しませんでした。決算書を出したのは、銀行に説明に行く6月20日で、その内容は債務超過であり預金は50万円しかなかったというお粗末なもの。M&Aの仲介手数料5500万円は、買収されたA社から、契約日の6月10日に支払われていたそうです。

 この決算書を契約前に見ていれば契約はしなかったと、社長さんは言っていました。その後3カ月で、仮払金というかたちで、A社の口座から1200万円を引き出されてしまいました。しかも私が契約書をチェックしたところ、「買い手の責任と負担において速やかに個人保証を解除する」とあるのに、契約解除条件にはこの条項が入っていないのです。

口車に乗らず、まず専門家に相談する

 私からすれば、買い手有利の意図的なだましです。買い手は預金が50万円しかないので当初から個人保証の解除を実行するつもりはなかったのです。しかも、売り手にとって個人保証の解除は一番大事な契約条件です。M&A仲介会社は仲介が成立しなければ手数料が入りませんから、買い手に有利な条件や売買金額を提案してきます。

 早く契約を成立させたいので、何も知らない売り手の社長に誰にも相談させないように口止めしたりします。弁護士や税理士が入ると当然、契約書や売買価額について交渉されるので口止めしたわけです。

 では、こうした場合、一体誰が売り手の利益を守るのでしょうか。本来なら、紹介した人であるべきです。A社の場合は金融コンサルタントです。しかし、その人が買い手側に立ったら契約書のチェックもなく、安い価額で会社を売却されてしまいます。今回の売買価額はなんと4円でした。

 紹介した人が弁護士や税理士に相談しろとアドバイスしなかったのが問題だと、私は考えます。紹介者がお客さま側に立っていません。結果として、株式を買い戻すために、仮払金1200万円は放棄し1000万円の支払いをしました。ただ、M&Aの仲介会社から、手数料は全額返済を受けました。

 事業承継コンサルタントという人たちがお客さまの不安につけ込んで、やらなくてもよい持ち株会社の設立や株式の移動を勧め、高額な報酬を取っています。彼らも、A社の金融コンサルタントと同じように、「相続対策に詳しい弁護士や税理士は日本に50人もいない」などと嘘を言い、税理士を関与させないようにします。

 実際には、相続専門の税理士は日本中にいます。古田土会計も累計200件以上の相続申告をし、専門の税理士とネットワークを活用して相談をしたり、契約書のチェックや契約内容の提案をしたりしています。

 私たち税理士や弁護士は、資格をかけて仕事をしています。信頼を大事にしています。“士業”は信頼に欠けるような事実があれば業務停止や資格剝奪になりますが、一般的なコンサルタントは資格がないので、何をやっても業務停止にすらなりません。M&A仲介会社や事業承継コンサルタント会社が有名でも、現場が暴走することもあります。うまい話にはすぐに乗らず、まず専門家に相談してください。

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執筆=古田土 満

執筆=古田土 満

法政大学を卒業後、公認会計士試験に合格。監査法人にて会計監査を経験して、1983年に古田土公認会計士・税理士事務所を設立。財務分析、市場分析、資金繰りに至るまで、徹底した分析ツールによって企業の体質改善を実現。中小企業経営者の信頼を得る。

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