「事業承継」社長の英断と引き際(第12回)会社の継続を最優先に考え、M&Aを選択

事業承継

公開日:2020.01.29

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ノース技研(下水道処理施設の設計)

 事業承継を果たした経営者を紹介する連載の第12回は、北海道札幌市で下水道処理施設を設計するノース技研。71歳の小川克正(よしまさ)社長は、2019年10月に自身が創業した同社を売却した。M&Aを選択した背景を聞いた。

1948年、北海道函館市生まれ。大学卒業後、函館市の造船所に勤務後、東京のケミカルエンジニアリング会社を経て、札幌市で下水道処理施設の設計を請け負う。1988年に独立し、ノース技研を設立した

 北海道函館市で生まれ育った小川社長は、大学を卒業後、地元の造船所に入社した。10年ほど働いたが、造船不況が訪れ希望退職の対象となってしまう。その後、1年半ほど東京に出てケミカルエンジニアリングの会社で働いたが、家庭の事情で北海道に戻った。そして、札幌市の下水エンジニアリングの仕事を始めた。下水処理場を建設する現場監督のサブのような立場で、業務委託として働いたという。

 「下水処理場の建設ラッシュの時期だった。日中の現場の仕事が終わったら、家では下水処理場の図面を何枚も描いた。造船所に勤務していた時に、船のエンジン部分の基本設計の図面を描いた経験が下水処理施設にも応用できた。当時はCADのような機械もなかったため、全部手書き。高い知識レベルが要求されたため、図面を書けることは重宝された。お客さまに随分喜んでもらえたという記憶がある」と小川社長は当時を振り返る。

 しばらくは“一人親方”のような形で業務を請け負っていたが、数年後に法改正により同じような形態で仕事を続けることが難しくなった。得意先の会社に就職することも考えたが、小川社長は自身で起業する道を選んだ。1988年、小川社長が39歳の時にノース技研を立ち上げた。

子どもへの承継は考えなかった

 これまでの知識や経験、人脈があったために、起業後も仕事には困らなかった。ノース技研が請け負う仕事の9割は下水道処理施設の設計・コンサルタント会社から依頼されるいわゆる下請け業務。残り1割は元請けとして、大学の研究室が実験で使用するミニチュアの下水道処理装置を作っている。

 「下水処理場は日々進化している。大学の研究所で小さな実験プラントを作り、いろいろな実験をして、うまくいけば実際に世の中の下水処理施設に応用される。その実験に使う装置を当社で設計している」と小川社長は説明する。

 下水処理施設の設計技術を持ち、下請けとして業務ができる会社が札幌にはほとんどなかったことも大きいというが、ノース技研は顧客から信頼を得て、創業から30年間、営業活動はほとんどせずに事業を続けている。多いときには従業員10人を雇用し、売り上げは年間1億円に達した。現在は7人の従業員が在籍し、売り上げは年間約6000万円だ。

ノース技研が大学の研究室から依頼を受け、設計を請け負った実験用の下水処理施設

 現在71歳の小川社長だが、事業承継について考え始めたのは、60歳を過ぎたあたりからだという。小川社長には息子と娘の2人の子どもがいるが、「子どもたちに事業を承継する気は、初めからなかった」という。

 「さまざまな考え方があるので、親子承継を否定するわけではない。もし子どもが会社を引き継ぎたいと考えるなら、どこかのタイミングで言ってきただろう。そうすれば、適任であれば承継も考えたかもしれない。しかし、私は、それを積極的に望んだことはなく、子どもたちはそれぞれの人生を生きてくれればいいと思ってきた。会社の経営で一番大事なのは従業員。やる気や能力のない子どもが、親子だからという理由だけで経営者になるのは、従業員たちに失礼だと私は思っている」(小川社長)

 小川社長が最初に考えた選択肢は、従業員への承継だった。従業員の中から次期経営者になってくれる人はいないかと、何人かの従業員と会話を重ねた。

 「しかし、みんな今の立場が一番いい、と言う。株式の譲渡や金銭的な問題はどうにでもなる。最も大事なのは、本人に気持ちがあるかどうか。経営者としてやっていく覚悟ができるかどうかだ」と小川社長。結局、声をかけた従業員に断られ、従業員に事業承継する選択肢はなくなった。

同じ名前の会社との運命的な出会い…

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執筆=尾越 まり恵

同志社大学文学部を卒業後、9年間リクルートメディアコミュニケーションズ(現:リクルートコミュニケーションズ)に勤務。2011年に退職、フリーに。現在、日経BP日経トップリーダー編集部委嘱ライター。

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