部下のやる気に火をつける方法(第11回)

人は命令調の文体になぜ反発するか

2020.01.16

クリップについて

 パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。これまでは、その前提として、言葉に出ていない部下の心を見抜く技術を10回にわたって紹介してきました。今回からは、そうした部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介します。その第1回は命令口調を使うことの戒めです。

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(1)


命令口調ではなく、意義を感じて、自ら燃えて動き出すように導く

 東京オリンピック・パラリンピックが2020年に開催されます。ところで、その前の1964年に開催された東京オリンピックで、金メダルを取ったバレーの強豪チームを率いたリーダーの一言が大流行しました。

 それは、「泣くな! 黙って俺について来い」です。この名言の主は、日本のバレーボールチーム、通称「東洋の魔女」を率いた「鬼の大松」というあだ名の付いた大松博文監督でした。監督は「選手が汗だくなら着替えさせ、自分は汗をダラダラ流しながらボールを連続して打っていた」(キャプテン河西昌枝氏談)という信念の人でした。

 また月1回は「息抜き」で選手たちを映画に連れて行き、帰りには好きなものをごちそうしたという人情家でもあり、選手との無言の絆もありました。だからこそ理屈はともかく、自分の言うことは絶対的に正しいから俺について来い、というわけです。監督に疑問を持ったり、ついて行けないと不満を漏らしたりする選手はいません。選手は歯を食いしばって従ったのです。

 ところが、昨今の若い社員には「黙って俺について来い」という言い方は通用しません。「理由も分からないけれど、ついて行く」というよりは、理由を理解し、納得しないとなかなか動いてくれません。

 最近、とても驚いた体験があります。生花小売業の会社に研修に行ったときのことです。その会社の新入社員は「PDCAシート」を書く決まりがあると聞きました。PはPlan(計画)、DはDo(実行)、CはCheck(評価)、AはAction(改善)を示し、この4段階を繰り返すことによって継続的な業務改善をするプロセスを表しています。

 ところが、このPDCAシートを記入しているという入社2年目の社員にその各頭文字について、それぞれどんな言葉の省略形なのか知っているかと聞いたところ、PlanとDoしか知らなかったのです。CheckとActionは意味を理解していませんでした。とにかく上司がPDCAシートに記入しろと言うので、サンプルを見て記入していたとのこと。よく聞いてみると「社員は職場に不満を言う人が多くて平均2年程度で辞めていきます」と言うではありませんか。やはり一般的には今の若者たちは、何の意味でそれをやっているのかを理解して行動する方が熱意を持って動き出すようです。

逆ピラミッド形のサーバント・リーダーシップ

 そこで提案したいのが「サーバント・リーダーシップ」の考え方です。1900年代に、アメリカのAT&T社のロバート・K・グリーンリーフが言い始めたものです。「リーダーは上から強引に命令して全体をコントロールするのではなく、まず自分が社会に貢献する者として奉仕の姿勢を示すべきである」と述べ、その延長線上の考え方で、部下と共に歩む姿勢を示すべきだと説きました。

 部下の心をよく読み取りながら、必要なところはサポートをして前に進んでいく。これは下図にあるように、ピラミッド形と逆ピラミッド形で表すとよく分かるでしょう。

 日本でこのモデルを取り入れた、有名な会社があります。私も直接研修に行きました。資生堂です。2001年に12代目の社長としてのバトンを受け継いだ池田守男氏は、東京神学大学を卒業して牧師になろうとしましたが、卒業後に資生堂に入社し、その後10代目社長の福原義春氏の秘書を経てトップに就任しました。

 彼が常に唱えていたのは、サーバント・リーダーシップでした。従来の社長を頂点としたピラミッド形の組織ではなく、リーダーは一番低い所にいて部下を支える。そして、リーダー、部下共に社会の多くの人々を支える、という逆ピラミッド形の考え方です。資生堂は「世界中の女性を美しくする」というビジョンの下、お客さまを頂点として社長、部下共に社会への貢献をめざし、発展したのです。

 トップダウンで「言われた通りにやりなさい」という指示が通用しない昨今の部下たちに、サーバント・リーダーシップを発揮するためには(1)企業として「社会に貢献する」というミッションを明確にする(2)そのことを部下によく伝え、共有する(3)何でも気軽に相談できる関係をつくる、の3つを実践しましょう。

 命令口調で指示しても反発しないのは、今どきAI(人工知能)くらいです。AIにできないことは何か。それは集中して深く考える力とクリエーティブな力だと脳科学者の茂木健一郎氏は書いています。命令口調ではなく、意義を感じて、自ら燃えて動き出す、これが人間としての部下の基本形と覚えましょう。

まとめ

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(1)
◆ 命令口調で指示を出しても、決して部下はついてきません。
◆ なぜこの仕事が必要なのか。やるとどんな良いことがあるのか。意義をしっかり伝えましょう。

SID : 00144011

執筆=佐藤 綾子

執筆=佐藤 綾子

パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。

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