パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介する第5回は、できていない行動をただ非難することの戒めです。そうではなく、具体的にどうしてほしいのかを伝えて、「そうしてくれたらうれしい」というメッセージを伝えるほうが、部下はやる気を出します。「あなたはどうして――」と非難せず、「こうしたら私は――」に切り替えましょう。
部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(5)
「あなたは――」ではなく、「私は――」と伝える
小学生の子どもを見てみましょう。お母さんに、「どうしてあなたはそうだらしがないの?部屋をちゃんと片付けなさい」などと言われると、男の子は大抵こう言います。「いやだもん」。「うるさいなあ」と言う子もいます。余計散らかす子もいます。「あなたはだらしない」とか「のろまだ」とか、その人がどうであるという判断を人からされるのが嫌いだから、こうした反応をするのです。
会社でも同じです。上司ともなると、部下の短所が目についたり、自分のように素早くできないことにいら立ったりすることも増えてきます。そこでつい、どうしてもこの言葉を多発してしまいます。「君はどうしてそんなに仕事が遅いんだ」とか、「あなたは一体何回言ったら分かるの?」と相手を責めてしまうのです。これらはみんなユーメッセージと呼ばれるものです。「君がどうである」と決めつけているわけです。
こうした傾向について、私が近年で最も素晴らしいと思った本『反応しない練習』(KADOKAWA)に素晴らしい記述がありました。仏教の僧籍にある草薙龍瞬さんの著書です。
人間というものはどうしても誰かを判断するのが好きだと書いておられます。あの人はばかだとかのろまだとか、能力が低いということを言いたがる傾向にあるというのです。
特に相手のネガティブ情報については敏感に気付き、烙印(らくいん)を押したがります。パフォーマンス心理学の立場から見れば、相手が自分より劣っていると指摘するのはその人の「優越コンプレックス」であり、その言い方をすることでむしろ自分の心の中にある「劣等コンプレックス」を隠していることがよく分かります。
できないことを責めず、どうしてほしいか伝える… 続きを読む
執筆=佐藤 綾子
パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。
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