部下のやる気に火をつける方法(第16回)

相手の目を見て話す

2020.06.11

クリップについて

 パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介する第6回は、「目を見て話す」ことの重要性です。忙しいからといって、部下から報告を受けた際、そっけない対応をしていませんか。それでは部下の苦労は報われません。部下の目を見て、しっかり話を聞くことが次からのモチベーションにつながります。たったそれだけのことで部下のやる気は違ってきます。

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(6)


相手の目を見て話を聞き、感謝を伝える

 中間管理職になると、自分の仕事が忙しいので、つい部下が持ってきたものを軽く扱ってしまうことがあります。「やっと仕上がりました。なかなかいい出来です」。「あ、そう。そこに置いといて」。わずかに体だけ部下の方に向けたものの、目と目を合わることもせず、書類をすぐに置いてしまうこともあります。

 これでは、部下は苦労が報われた気がしません。面倒でも、たった0.5秒から1秒間、つまりウィルソンの言う「1万1000要素の情報が相手の目に入るこの瞬間」に(本連載第1回「視線とアイコンタクトで部下の心は判断できる」参照)、目と目を合わせて「よくやったね。ありがとう」と言ってあげてください。その暇もなければ、アイコンタクトだけでも感謝の気持ちを伝えることができます。

 ちなみに、私の実験データでは、1分間あれば266文字(平均的な漢字交じり)を話せます。「ありがとう」は5文字で1.1秒です。「ありがとう」を笑顔で言う。そんなに簡単なことで部下が動くならやらない手はありません。目を見て話すだけで、部下は認められたと感じることができます。

 フランスでは、この「相手の存在を認める」行動を高齢者のケアに活用しています。「ユマニチュード(人間らしい)ケア」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。

 1970年代のことです。介護の必要な高齢者が増加すれば、医療費がかさんで困ります。そこで仏政府は、この高齢者たちの寝たきり状態を減らす方法を考えてほしいと課題を投げかけました。応えたのがイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人の体育学教師でした。彼らはさまざまな試みの末、3つの行動で高齢者が元気になるということを発見したのです。そしてこれを「ユマニチュードケア」と名付けて発表しました。

 どんなケアでしょうか。簡単に言うと【1】アイコンタクト【2】スマイル【3】タッチをします。相手の顔を0.5秒以上見つめて話をする。顔を近づけ、目を見て話す。顔を近づけ、ほほ笑みながら話す。そして、ちょっと触れてあげる。

 こうした行動を続けると、足が悪くて寝たきりになっていた老人も、立ったり、歩き出したりしたのでした。そして、認知症になってしまった人でも、1日に20分間立つことができれば寝たきりにはならないという貴重な発表をしました。

相手の目を見て話し、認めることが大切

 日本でも最近、ユマニチュードの考え方は取り入れられ、病院で実施しているところもあります。つまり、きちんと目を見て話し、相手を人間として扱うことが病人の意欲や行動につながるというのです。

 上司こそ、どんなに忙しくても部下へのユマニチュードをお勧めします。まず相手の目を見て話し、認めることから部下の次の仕事が始まります。

 IT社会で育った彼らはメールやFacebookやブログやTwitterの中での簡単な「イイネ」のやり取りに慣れてしまい、Face to Faceの温かい感情の込もった表現の仕方が下手です。ですから上司が人間的な「目を見る」「話しかける」「タッチする」というシンプルな動作を、心を込めてやってくれたことで、こちらの予想外に付いてきます。そこから率直な自己開示が始まり、相手の気持ちを読み取ることで「ラポール(共感関係)」ができていきます。

 これは私も常に体験しています。某建築会社の80人ほどの研修を頼まれて出掛けたときのことです。30歳くらいと見える女性が、他の仲間の顔を全く見ません。講師の私にも視線を合わせません。ふてくされたような表情をして「この話はつまらない」と言わんばかりです。

 休憩時間にふと彼女を見ると、後ろのテーブルのポットからお茶を注いでいるところでした。相変わらず無表情です。胸に名札が付いていたので「Kさん」と呼びかけて、真っすぐ彼女を見て「今日の話、何か使えるところあった?」と笑顔で話しかけました。すると、思いがけないくらいつっけんどんな答えが返ってきました。

 「私はどの上司にもどの研修の講師にも相手にされていないんです。先生はどうして私に話しかけたのですか」「そうねぇ、どのみち2時間座っているんだったら、私だったら面白がって笑っていた方が得だなぁと思うかもしれないからね。Kさんが面白がるような話をしたいと私も思うの。さて、休み時間の後は、Kさんは何を聞きたいのかな?」これに直接返事はありませんでした。でも彼女の口元がちょっと緩みました。何か言いたかったに違いありません。

 さて休憩後、私は参加者全体に視線を配りながら、時に彼女だけに視線を合わせて、目だけで「面白いかな?」という問いかけを送りました。すると、驚いたことに彼女は私の目を見つめ返したのです。これが何度かありました。そして後日、研修のアンケートが送られてきました。彼女は名前を記して「今までの研修の中で先生が一番私のことを分かってくれました。パフォーマンス心理学は面白いと思いました。にこやかな表情とメリハリのある声の出し方で相手の心の中のニーズを探りながら話すことを明日からやってみます。ありがとうございました」と書いてありました。

 講演や研修で、全員と話すことは大変なことです。それでも一人ひとりとアイコンタクトを取り、ちょっとした隙間時間に一言話すくらいは気を付ければできることです。

 まずはアイコンタクトをしっかり取ってください。言葉が交わせないほどの短時間や大勢の部下がいる場面でも、アイコンタクトは強力な武器になります。ちなみに二者間の対話時間中、相手が自分に関心を持ってくれたと感じるアイコンタクトは60秒当たり32秒以上、つまり話し中の53%以上の時間です。

まとめ

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(6)
◆ 部下に話したり質問に答えたりするときには、相手の目を見て答えましょう。
◆ ケース・バイ・ケースで「大丈夫だよ」とほほ笑みかけたり、ポンと肩に触れ、存在を認めていることを表現することが大切です。

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執筆=佐藤 綾子

執筆=佐藤 綾子

パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。

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