部下のやる気に火をつける方法(第19回)

部下の言葉を肯定し、大事なことは繰り返す

2020.09.10

クリップについて

 パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介する第9回は、その前提となる部下の話の聞き方と大事なことを伝えたいときのポイントです。部下にメッセージを伝えるためには、部下からのメッセージの受け取り方も大切です。また、大事なことをきちんと伝えるには、効果的なセオリーがあります。

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(9)


部下の言葉は肯定的に受け取り、大事なことは繰り返し伝えよう

 何か部下が言ってきたとき「君の言うことはこうだよね。だけど、僕はさ」とすぐに言い出す上司がいます。黙って話を聞きながら、「そうなんだ。しかしね」と言うのも同じです。部下が何を言っても取りあえず否定する上司です。相手の言うことはダメで、自分の言うことはいいことなのだという凝り固まった固定観念が思わず出てしまったものです。

 アサーティブ(assertiveness:自己主張)メソッドとは、相手を尊重しながら、自分の意見や要望を伝えるコミュニケーションの方法です。自分も正しい、そして、相手も正しい。つまり「I am OK, you are OK」の考え方がアサーティブな考え方です。

 常に「I am OK, you are NO」という上司では、上司本人は気分が良くても、部下は傷つきます。逆に「You are OK, I am NO」ばかりでは、いつも相手に迎合して自分にストレスがたまります。上司と部下の間柄でも、両方OKにするのが一番生産的なのです。

 「そうだね。しかし」と逆接の接続詞を使うと、相手の心に「しかし」という逆接だけが残り、途端に部下は「また何か文句を言われるかもしれない」と内心身構えてしまいます。

 ですから、「君の考えはそうだね。そして僕はね」というふうに、必ずandの順接でつないであげましょう。これができると、両者がOKだという、同等感や連帯感のある素晴らしいチームが完成していきます。上司の物の言い方は、win-winであることが部下から自由な発言を引き出す条件です。

大事なことを繰り返す二元重複

 相手が話を聞いていないと思ったら、念を押して繰り返すことがあるでしょう。これが「二元重複(conduplication)」というパフォーマンスの技法です。この使い方がとても上手なのは小泉進次郎氏です。彼にこの技術を自然に覚え込ませたのは、父の小泉純一郎氏でしょう。例の「郵政改革」、「聖域なき構造改革」などの改革の言葉を繰り返したのもこの二元重複で、人々の頭に「改革」という言葉をたたき込む技術でした。

 二元重複は小泉純一郎氏に始まったことではなく、スピーチ大国の米国では、常に当たり前のこととして使われてきたものです。

 米国の例を見てみましょう。オバマ前大統領の演説は、英語が全く分からない人が聞いても、とても心地よく響きます。それは同じ単語が何回も繰り返される二元重複が使われるからです。小泉純一郎氏の「構造改革」、「郵政改革」、「聖域なき構造改革」も、もしかしたらこのオバマさんの技法に並ぶテクニックかもしれません。

 オバマ前大統領は、2004年民主党党大会基調演説で、「こんなすごい人は絶対大統領になる」とみんなに思わせましたが、クライマックスでは「hope」という単語が11回も使われています。Hope、hope、hopeと11回言われると、こだまのように頭に入ってくるわけです。このやり方は大統領就任演説でも同じように使われました。

 上司であるあなたが部下に言いたいことがあって、それを覚えてほしいなら、飽きずに何度でもそれを言うことです。例えば「諦めない」でもいいです。事に触れて「諦めない、諦めないんだね」と言ったらいいのです。

 私がよく周りの仲間たちや学生たちに言う言葉は「稀勢の里」です。類稀(たぐいまれ)なる勢い。もっとも「勢」という名前の力士もいますが、「稀勢の里」を見ていて、ずっとこの「類稀なる勢い」という名前が気になっていました。

 そこで私はいつも言うのです。「これはちょっとやってみよう。稀勢の里流で」とか、「私は稀勢の里と同じ思いです」、「稀勢の里でいこう」というわけです。意味が分からない人は目をパチクリしますが、それこそチャンス。その意味を説明して、「稀勢の里」という単語を共有しています。大切だと思う単語を握り締めたら、何回でも飽きずに使いましょう。

まとめ

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(9)
◆どんな内容であれ、部下の話はまず肯定で受け取りましょう。
◆「そうだね、そして」と続ければ、部下も否定されたと感じずに、発言しやすくなります。部下との間には同等感や連帯感が重要です。
◆大切な言葉は何度でも繰り返して伝えましょう。キーワードとして部下の頭に残ります。こうして忘れさせないことが行動のきっかけになります。

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執筆=佐藤 綾子

執筆=佐藤 綾子

パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。

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