部下のやる気に火をつける方法(第21回)高いビジョンをストーリー&ショーで支える

人材活用

公開日:2020.11.12

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 パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介する第11回は、前回に続いて、米国トランプ大統領に学ぶビジョンの伝え方です。ビジョンをより強く伝えるためには、簡潔にするだけでは十分ではありません。ストーリーを作って、論理に加え感情も動かす必要があります。トランプ大統領の演説を分析してみましょう。

部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(11)


ビジョンはストーリーにして論理だけでなく感情も動かす

 いくらメキシコとアメリカの間に壁を造る、強くするといっても、もう一歩トランプ氏は自分の話に高いビジョンを掲げたいと思ったのでしょう。

 どこの会社でも、会社のパンフレットを開ければまず企業理念というのが書いてあります。「私たちはこの仕事によって日本中の全ての人々の幸福づくりに貢献します」というような思いです。社員の心を1つにするためのビジョンには、万人の幸福などの崇高な思想が入っていることが大切です。

 そうなると、確かにアメリカファーストはビジョンといえばビジョンですが、そこに崇高さが欲しい。そこでトランプ氏が大統領の就任演説に取り入れたのは神でした。「The Bible tells us(聖書は言っている)」というわけです。そして、彼は次の文章を口にしたのです。「聖書には、神の民が仲良く共存すると、それがいかに素晴らしく心地よいかと説いている」。神の崇高な言葉ですから聞き手の心を打つに違いないという、いわば神様を保証人にしたような上手な言い方です。

 私は、テレビ局の依頼で、演説中の全てのセリフと動作を0・5秒単位でシートに記入しました。そして驚いたのは、全体の演説時間がオバマ前大統領より3分も短いのに、「聖書は言っている」、「神様の祝福がある」というように、聖書関係の文言を語った長さはトランプ氏のほうが長かったのです。

 おまけに、歴代大統領が一冊聖書を持ってきて宣誓するのが普通なのですが、彼は念入りに2冊も持参しました。夫人の手の上にトランプ家の赤い聖書とリンカーンが使った黒い聖書を載せ、トランプ氏がその上に手を重ねたのです。2冊のインパクトは視覚的にも大きなものでした。

 聖書が認めている考えは、みんなが仲良く、あらゆる人種が仲良くすることです。それは彼が今まで黒人やヒスパニックに侮蔑的な言葉を吐いてきたのとは裏腹に、非常に高い精神を持った大統領だというメッセージを分かりやすく発信しています。高いビジョンをストーリー化して、物語のように人々の心の中に入れていく。自分には信仰心があり、崇高な思想を持っているというところを2冊の聖書で示して見せたわけです。示して見せる、これが「ショー」です。

論理性に加えて、感情を動かすことが大切…

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執筆=佐藤 綾子

パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。

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