ニューノーマル処方箋(第1回)

成果が出るテレワーク、出ないテレワークの違いとは

2020.11.10

クリップについて

 コロナ禍で中小企業はテレワークをどう実践すべきか?テレワークICT協議会会長の三島浩一氏が現場を知る“プロ”の立場から経営者や管理者が行うべきポイントを解説します。

<目次>
・まず「分からないから感じる不安」を取り除く
・生産性低下の原因は「紙とハンコ文化」にある
・メールやチャットの使用時間を限定して業務に集中
・監視ではなく「見える化」で部下を管理する

まず「分からないから感じる不安」を取り除く

 2020年4月7日の緊急事態宣言をきっかけに、多くの企業にとってテレワークは、「働き方改革に含まれる可能性の1つ」から、「今解決しなければならない目の前の課題」となりました。IT企業によるテレワークの全面導入や、オフィスの削減といったニュースを目にすると、テレワークはすでに一般化したような印象を受けますが、三島氏は「大企業と中小企業でテレワークの浸透状況に大きな差がある」と語ります。

テレワークICT協議会会長
actuarise株式会社代表取締役
三島浩一氏

 大企業の多くは、緊急事態宣言の前から、テレワークに必要なツールや環境をある程度整備していました。ITベンチャー企業も、コラボレーションツールなどを普段から使っていたことでテレワークでの業務にスムーズに移行しましたが、それ以外の中小企業の多くは、いまだにツールの導入すら進んでいないというのです。

 三島氏によると、ツールの導入をためらう理由の1つに、コストの問題を挙げる経営者が多いとのこと。しかし、実際にはコストはそこまでかからないようです。

 「サブスクリプション方式で提供されるクラウドサービスなら、社員1人当たり月数百円から利用できます。テレワークのために必要十分な機能を備えているので、ためらわずに導入を進めてほしいです」

 別の理由としては、「セキュリティ面が不安」という声もあるといいます。この点について三島氏は、経営者や管理者が、その不安に対して向き合っていないのではないかと指摘します。

 「テレワークでセキュリティに不安に感じるのは、どんな脅威があるのかよく分かっていないからです。何がどれだけの脅威になるのかをきちんと理解すれば、気を付けるべき点も明確になります。

 例えば、ファイルの重要度を分類して、『情報漏えいが許されないファイルは在宅で使わない』ルールを作れば、心理的障壁も取り除けるでしょう。パソコンの持ち出しによる紛失が不安なら、ハードディスクごと暗号化する方法もあります。具体的なリスクを挙げて対策を検討すれば、過剰に恐れる必要がないことも分かってきます」(三島氏)

 一方で、「ウチの社は大して重要な情報を持ってない。こんな小さな会社をわざわざ狙ってきたりしないだろう」と、経営者や管理者が楽観的に考え、セキュリティ対策がおろそかになっている企業もあるようです。しかし、三島氏はこう警告します。

 「そういった企業にお伝えするのは、『取引先に大きな企業はありませんか?』ということです。昨今のサイバー攻撃では、大企業のサプライチェーンに入っている中小企業を踏み台にして、大企業を狙うケースもあります。自社のセキュリティ対策の甘さが原因で取引先に損害を与えるようなことがあれば、ビジネスの死活問題になります」

 社内にセキュリティ知見がある人材がいない場合は外部企業の力を借りることも必要です。昨今では、システムやネットワークなどにセキュリティリスクがないかを無料で調査できるセキュリティ診断のサービスもあります。

 脅威を知り、正しく恐れ、正しくセキュリティ対策をしたうえでテレワークの環境を整えるのが、どの企業にとっても重要なのです。

生産性低下の原因は「紙とハンコ文化」にある

 テレワークに移行したとしても、すぐに成果が出るというわけではありません。三島氏は「テレワークで通勤時間がなくなり、デジタルツールをフル活用して生産性を高めている企業が存在する一方で、仕事がこれまで通りに進まず戸惑っている企業も多い」と指摘。その差については、「オフィスでしかできない仕事があると効率が下がります。テレワークによって生産性が下がった企業は、今までのオフィスワークに問題があったと考えていいでしょう」と説明します。

 その問題とは、ペーパーレス化が進んでないことや、ハンコ文化から脱却できていないことなどです。例えば、顧客先からの注文をFAXで受けている場合、誰かがオフィスにいなければ受注内容が分かりません。請求書や見積書などをシステム上で作成できる仕組みがあっても、それをプリントアウトして上司へ押印を依頼するという決裁プロセスであれば、そのためにオフィスで作業をしなくてはなりません。

 「オフィスでしか仕事ができない働き方をしていた企業は、今そのツケが回ってきています。書類に承認のハンコを押すことは、管理者としては安心感があります。しかし部下にとっては、ハンコをもらうためだけに営業先などからオフィスに戻ってこなくてはいけない。これではテレワークで生産性を上げることはできません」(三島氏)

 こうした社内の制度は、一般の従業員だけでは変えられません。経営者や管理者が指揮を執り、率先して変えていくべきでしょう。

メールやチャットの使用時間を限定して業務に集中

 古い制度を変えることも重要ですが、新たに取り入れたツールを活用することも、テレワークをうまく回すためのポイントとなります。三島氏は、用途に応じてツールをうまく使い分け、管理者はそのルールを全員に周知することが重要と指摘します。

 「何かを告知するだけならメールや掲示板が適しています。リアルタイムに近いコミュニケーションが取りたい場合はチャットですね。ただし、後で検索したい内容が含まれるようであれば、チャットでは検索しにくいため、メールにしたほうがいいでしょう。メールの件名について社内ルールを決め、返信が必要な場合は『要返信』と入れるなど、統一することが効率的です」

 集中力を高めるため、ツールを使い過ぎないことも重要。メールやチャットに対してリアルタイムで返信していると、なかなか仕事に集中できません。そこで三島氏は、ツール利用時間のルールを決めることを推奨しています。

 例えば、「1時間のうち最初の5分だけをメールの返信に充て、残りの55分は返事をしない」ルールや、「午前9~10時をコミュニケーションの時間に決めて、10時以降は自分の仕事に集中する」といったようなルールです。

 会議のルールを再確認することも大切だといいます。「ZoomやMicrosoft TeamsなどのWeb会議ツールを使えば会議室を押さえる手間もなく、気軽に会議ができる環境になっています。しかし、そもそもその会議が必要かどうか、しっかり考えてください。テレワークに限ったことではありませんが、毎週行う定例会議も特に議題がないときはやめる、決議しないような会議はやらないといったように、『会議の仕分け』をすることもテレワークでの生産性の向上につながります」と指摘しています。

「朝メール・夜メール」で仕事を見える化

 先に挙げたような新たな働き方を、チームのメンバーに浸透させられるか否か。管理者のマネジメント能力が試されそうですが、三島氏はまさに、テレワークを円滑に進めるポイントとして、管理者による「部下の管理」を挙げています。

 「管理と監視は違います。部下がサボっていないかチェックするのは『監視』であって『管理』ではありません。進捗管理やタスク管理など、『管理』という名の付くものでマネジメントしましょう」

 適切な管理として三島氏が例に出したのは、1000社以上の働き方改革を成功させた株式会社ワーク・ライフバランスが提唱する「朝メール・夜メール」です。朝メールでは、従業員それぞれが当日の時間の使い方を15分単位で区切って書き出し、チーム全員にメールします。夜メールでは、朝メール通りの1日だったかどうかを実際に報告するのです。

 「もちろんすべてが予定通りに進むとは限りませんが、報告することによって社員一人ひとりが時間の使い方を意識して1日を過ごすようになります。私の経験上でも、これを徹底するだけで、残業は減ります。もちろん計画通りいかないこともありますが、大切なのは部下が自分の仕事の『予実管理』をすることです。それによって何をしたのか上司に説明できる働き方ができるようになります」(三島氏)

 誰が何をするのかをチーム全員が把握することで、チームワークが強化され、業務の属人化解消にもつながると三島氏は話します。

 「チーム内の業務を『朝メール・夜メール』で見える化すると、『この人がこれをやるのであれば、過去に使った資料を渡そう』といったように、協力体制が取りやすくなるのです。さらに、テレワークの場合は同じ空間で仕事をしているのと比較して、その人の業務量が分かりにくくなりますが、仕事を見える化することで、『あの人は忙しいそうだから、急ぎの仕事を頼まないようにしよう』というような、細かい配慮が可能になります。

 管理者側も、部下の忙しさや仕事の期限が把握でき、アウトプットを管理して適切な評価ができるようになります。チーム内のスケジュールを管理し、特定の個人に仕事が偏らないよう調整もできます」(三島氏)

 同氏が代表を務めるactuarise株式会社では、チームメンバーがスケジュールとやるべき仕事を登録して仕事量を見える化することで、チームリーダーがメンバーの仕事量やアウトプットを把握できるクラウドベースのマネジメントツール『チームToDo』を提供して、企業の働き方改革を後押ししています。

 もっとも、朝メール・夜メールやチームToDoのような管理方法は、従業員にとって申告や報告の手間が増えるため、「導入時に必ず反発を受けます」と三島氏はいいます。「導入の際には、必要性をきちんと説明し理解してもらうことが重要です。従業員に自分の仕事を正しく評価してもらえるメリットを理解させることが管理者にとって重要なのです」と、管理者側の姿勢が重要である点を指摘しました。

 「監視の一環だと思われてしまってはチームメンバーの協力を得ることが難しくなります。例えば、“業務を共有すれば仕事の効率も高くなる”“自分はこれを見て仕事のアウトプットを評価する”ことを強調するなど、メッセージの伝え方が重要です」(三島氏)

 三島氏が挙げたポイントを振り返ると、テレワークを成功に導くための鍵は、実は経営者や管理者が握っていることが分かりました。まだテレワークを導入していない、もしくはテレワークを導入したもののうまくいっていない企業の経営者や管理者は、三島氏が指摘したポイントを変えることで、時代の流れに合った、新たな働き方を始めてみてはいかがでしょうか。

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三島 浩一(みしま こういち)

三島 浩一(みしま こういち)

パナソニック販売子会社に新卒で入社後、デジタルアーツ株式会社、EMC(現:Dell EMC)の日本法人を経て2013年8月にactuarise株式会社を設立。2015年にテレワークICT協議会を立ち上げ、全国で講演を行う。著書に電子書籍『業務効率を格段にあげる「チームToDo」という発想』。株式会社ワーク・ライフバランスのコンサルタント養成講座修了。

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