ファミリア 代表取締役社長 岡崎 忠彦氏
グラフィックデザイナーから家業を継いで社長業に転身。デザインと経営の両方を知る岡崎忠彦社長にとって、デザインはコミュニケーションツールだという。
──岡崎社長は、企業経営におけるデザインとはどういうものだと考えていますか?
岡崎:企業は「人」の集合体ですよね。最も大事なのは人。企業は何でできているかというと人ですし、お客さんも人、取引先も人ですから。
だから僕が企業経営で重視しているのは、経営の視覚化なんです。社員にいかに分かりやすく現状を伝えるかが大事だと考えています。ほら、野球でもサッカーでも、ルールを知っているからこそ楽しめるじゃないですか。経営も同じで、現場の社員が経営のことを分かってくると、すごく面白くなる。現場の社員が難しいと感じている経営に関することを、いかに分かりやすく伝えて、みんなを巻き込んでいくか。経営を人ごとではなく自分事にしてもらうか。つまり僕にとってデザインはそのためのコミュニケーションツールなんです。
僕はもともとアーティストになろうと思っていた人間で、会社を2011年に継いだときは経営のことはまったく分からなかった。そこで少しでも自分の得意分野を生かしたいという思いから、経営とグラフィックデザインを合体できないかと考えたんです。(アップルストア1号店をデザインした)デザイナーの八木保さんのところで教えてもらったビジュアルコミュニケーションがとても役立っています。
子ども服を中心としたアパレルメーカーであるファミリアという会社が今、置かれている状況や課題、やるべきことは何か、中期的な計画など、社員向けのプレゼンテーション資料はすべて自分で作っています。ビジュアルを使って、できるだけ分かりやすく伝えられるように。
僕は、経営者の仕事って現場からできるだけ多くのアイデアを出してもらって、さまざまな意見を聞いて、それをジャッジすることだと考えています。
僕が社長になったのは会社に一番元気がないときだったんですが、現場の社員に聞いてみると、意外にもめちゃくちゃ意見が出てくるんですよ。それを全部ビジュアライゼーションしておいたんです。2016年にオープンした代官山店は体験型ショールームであり、ネットとの親和性を重視したオムニチャネル対応店舗ですが、これは社員たちのアイデアから生まれたものです。僕が考えたわけではありません。
お客さんに共感してもらったり、新しいアイデアを得たりするのに最も必要なのはコミュニケーション能力。自分自身もそうですが、コミュニケーション能力に長けた社員を育てなければいけない。そこにどれだけ投資できるか。
うちは、幹部に社員向けプレゼンテーションをドンドンやってもらうんです。で、それがきちんと現場に浸透しているか、僕が店舗を回ってチェックします。「あなたが言っていたこと、現場に伝わっとらんよ」と。
また、リーダーシップ研修を頻繁に実施して、外部人材を招いて社員にレクチャーしてもらったりしています。大学の先生に経営の基礎を教えてもらったり、本を読んで討論してもらったり……。経営はすべての部署の人間が関わるものなので、一部の人だけが分かっていても駄目なんです。少なくても、現場にも分かる共通言語をつくらなきゃいけない。そのための取り組みです。
──デザイナーも積極的に招いているそうですが、社員に対してどんな話をしてもらうんですか?… 続きを読む
岡崎 忠彦(おかざき・ただひこ)
1969年生まれ。甲南大学経済学部卒業。California College of Arts and Crafts.,Industrial Design 科卒業 BFA。Tamotsu Yagi designでグラフィックデザイナーとして働く。2003年にファミリア入社、取締役執行役員などを経て2011年から現職。
連載記事≪トップインタビュー≫
- 第1回 基本を磨いて、結果出せる集団に 2015.07.01
- 第2回 会社を成長させるには、まず社員を喜ばせなさい 2015.07.01
- 第3回 失敗を許容するリーダーが強い 2015.07.10
- 第4回 社長は悪人でも務まる。利益を出す力があれば 2015.07.17
- 第5回 常に他社と違うものを求め挑む 2015.08.06
- 第6回 良い社風には良い社員が集まる 2015.09.03
- 第7回 “まごころ”重視の経営が利益を生む 2015.10.01
- 第8回 凹んだ時期は新機軸で乗り切る 2015.11.05
- 第9回 「社員大事」の経営で利益生む 2015.12.03
- 第10回 会社への「共感」がお客を呼ぶ 2016.01.07
- 第11回 お客の利益優先で商売繁盛 2016.02.04
- 第12回 「蛮勇」の精神でアジア市場へ積極的に進出 2016.03.02
- 第13回 マニュアル武器に卵を世界に拡大 2016.04.06
- 第14回 人を喜ばせれば自分に返る 2016.05.11
- 第15回 中小企業こそ「ダントツ」磨こう 2016.06.07
- 第16回 地方企業は考える。だから強い 2016.07.06
- 第17回 「どうせ無理」を無くして中小企業が宇宙に挑戦 2016.08.03
- 第18回 弓道を経営に生かし、業績2倍 2016.09.07
- 第19回 生産性と顧客満足の二兎を追う 2016.10.05
- 第20回 最古の会社、「本業を磨く」で復活へ 2016.11.02
- 第21回 「建設会社のせがれ」の地域再生秘話 2016.12.07
- 第22回 商品力の源泉は社員と顧客 2017.01.11
- 第23回 ホテル経営からロボット開発へ 2017.02.01
- 第24回 経営者不在でも動く社員を育てる 2017.03.01
- 第25回 心がプラスならうまく運ばれる 2017.04.05
- 第26回 中小企業は感覚で経営する 2017.05.10
- 第27回 モス型組織の秘密は「心+科学」のバランス 2017.06.07
- 第28回 誰が発電したかを価値にする個と個をつなぐ新電力 2017.07.24
- 第29回 再エネ市場は地域理解を得られる企業が生き残る 2017.08.24
- 第30回 経営はデザインそのものだ 2017.09.28
- 第31回 デザインはコミュニケーションツールである 2017.10.26
- 第32回 自己表現をするためにデザインは欠かせない 2017.11.30
- 第33回 ブランディングとは「共感」を集める仕組みづくり 2017.12.14
- 第34回 社会から求められる「いい会社」に投資 2018.01.25
- 第35回 発電や農業に挑むナカバヤシのチャレンジスピリット 2018.02.22
- 第36回 一瞬でコンセプトを伝えるために顧客接点を整える 2018.03.29
- 第37回 苦境の日本酒市場拡大へ菊正宗が挑む 2018.04.26
- 第38回 明快な目標設定が元気を生み出す 2018.05.24
- 第39回 文化とソフトで独自商品を売るサクラクレパス 2018.06.29
- 第40回 松岡修造語る「感情の言語化で伝える力が身に付く」 2018.07.09
- 第41回 世界で先端技術開発を支える環境試験器のエスペック 2018.08.22
- 第42回 ロハスを徹底してブランディングに取り組む 2018.10.22