トップインタビュー(第47回)個々の能力を最大化するオフィスづくりをめざす

経営全般

公開日:2019.10.30

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イトーキ 代表取締役社長 平井嘉朗 氏

働き方とオフィスの関連を語るイトーキの平井嘉朗社長

 株式会社イトーキは1890年創業の100年以上の業歴を持つ老舗企業であり、オフィス家具の製造・販売を手掛けている。2018年10月に先進的なコンセプトのオフィス機能を満載した新本社「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ トウキョウ ゾーク)」を東京・日本橋に開設した。今、同社はどのようなことを見据えて事業を展開しているのか。代表取締役社長・平井嘉朗氏に話を伺った。

――イトーキは一般的にはオフィス家具メーカーとして知られていますが、実際は、かなり事業領域を広げられていますね。

 現在、公共空間、生活空間など、あらゆる空間が我々のマーケットになっています。具体的には学校、病院、研究施設、商業施設づくりのお手伝いもさせていただいています。ただ、中心になっているのはやはりオフィスです。オフィス空間の在り方を追求しながら、領域を広げている会社とご理解いただければと思います。

 そして、当社はオフィス家具を販売している企業であることは間違いありませんが、そこに至るまでのプロセスを特に重視しています。例えば、お客さまがオフィスを新設される、あるいは移転される際には企画段階、構想段階から関わらせていただくことが当たり前になっており、お客さまとご一緒にどういうオフィスにしたらいいのかを考えさせていただくのです。

――単に使いやすい机や椅子などを販売するだけではないのですね。

 もちろん、机や椅子といった家具だけを提供させていただくケースもあります。ただ、空間づくりをお手伝いするときは、ただきれいなオフィス、カッコいいオフィスをつくるのではなく、そのお客さまのビジネスの発展に寄与するオフィスをご提案するようにしています。

 どういう机や椅子を置くかといったオフィス家具に関することはもちろん、床・壁・天井といった内装も含めて、オフィスの6面体すべてのハード面をお手伝いするのは当たり前のことです。さらに面積、レイアウト、使い方といったソフト面についても、お客さまとご一緒に考えます。我々はオフィスを、経営戦略を具現化する場だと考えています。どういう空間をつくって、経営戦略を具現化するか。そのお客さまのニーズに応え、オフィス空間をつくり上げていくことを大切にしています。

――オフィス家具というハードの販売ではなく、“オフィス空間づくり”というソフトの提供ですね。

 そうですね。例えば、新しいオフィスに移転したとしましょう。移ったときは「こんなに新しくてきれいなオフィスになった」とスタッフは喜ぶと思います。しかし、1年もたてば慣れてしまい、新しくきれいなオフィスという感動はなくなってしまいます。つまり、ただきれいなオフィスをつくるだけではなく、そこで働くワーカーの行動を変えるオフィスをつくることが重要だと考えています。

 一例として、オフィスのレイアウトを考える際、分散していた複合機やコピー機を1カ所にまとめるケースが最近増えています。これは普段交わることがなかった社員間のコミュニケーションを活性化させるという狙いがあります。こうした考え方でオフィスをつくり、その効果を検証していくことが大切です。コミュニケーションが活性化することで新しい発想が生まれ、創造的な仕事につながって、どれだけ新しい価値を生み出せるようになったのか。オフィスが変わることで、どのくらい生産性が上がったのか。それを見る必要があると思います。

 これまでオフィスに対しては、いかに安く机や椅子を並べるかといった発想を持たれる経営者の方が少なくなかったと思います。オフィスにかける費用は「コスト」だという考え方です。しかし、最近は、オフィスにかけるお金は、創造性を高めたり、生産性を上げたりするための「投資」だと考える経営者の方が増えてきています。もちろん、オフィスを変えるだけで、急激に、創造性が高まったり、生産性が上がったりするわけではありません。IT技術を使ったアプローチや人事評価を使ったアプローチなども必要でしょう。しかし、働く環境を整えることもとても大切なことなのです。

――今、2018年10月に開設された新本社「ITOKI TOKYO XORK」にお邪魔してお話を伺っています。新しい働き方をめざすコンセプトを意欲的に取り入れているというこのオフィスについて教えていただけますか?

 私は、自分の頭で考え行動する人材をいかに輩出するかが、現在すべての日本企業の大きなテーマになっていると思います。我々がこのオフィスで何をやっているかというと、「1人ひとりが自分の働き方を自分で考えてデザインし、個々の能力を最大化する働き方」への挑戦です。

新本社のエントランス

 それを実現するためのコンセプトが2つあります。1つは「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング、以下ABW)」です。これまでのオフィスは大きく分けると、自分の机で仕事をするか、会議室や打ち合わせスペースで仕事をするか、この2軸でしか働く場所を考えてこなかったように思います。フリーアドレスも比較的普及してきましたが、昨日と今日で座る場所が変わるというだけで、自分の席で仕事をするか、会議室で仕事するかという選択をしていることには変わりがありません。

 それに対して、イトーキではABWの考え方に基づき働き方を分析し10種類の使い方に分け、それぞれに対応した10種類のスペースをこのオフィスに設けました。

 例えば、何の邪魔もされずに1時間集中して仕事をしたいというときがあります。電話も取りたくないし、話し掛けられるのも嫌だというような。そういうときのためにパーティションで分離された、個室に近い「高集中(HIGH-FOCUS)」というスペースを設けました。

集中して業務ができる「高集中」スペース

 また、そこまで集中しなくても構わないけれども自分1人で仕事を進めたいというときもあります。多少、話し掛けられても構わないけど、緩やかに集中したいというケースです。そういうときに使うのが「コワーク(LOW-FOCUS)」のスペースです。

穏やかに集中して働く「コワーク」スペース

 さらに、2人並んで一緒に画面を見ながら進めると生産性が高まるような仕事もあります。今までのオフィスでは自席に呼んで2人並ぶという少し落ち着かない形にするか、大きな会議室に2人でこもるというもったいないスペースの使い方になっていたと思います。このオフィスでは、2人の作業にぴったりの空間として「二人作業(DUO)」というスペースを設けました。

2人で行う業務に最適な「二人作業」スペース

リラックスするための「リチャージ」スペース

 これら以外にも、3人以上のグループでアイデアを出し合うための「アイデア出し(CREATE)」というスペース、リフレッシュするための「リチャージ(RELAX)」というスペースなど、使い方ごとに最適な10の空間がこのオフィスにはあります。

 もちろん、これだけいろいろなスペースがあると、どこで仕事をするか自分で考えなければいけなくなります。今日1日、どう動いて、どこで何をやるのか。自分で考えて自分の働き方をデザインし、より効率的に、生産性の高い仕事をするというのがこの新本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK」です。自分で考える習慣づけにつながると思っています。

――もう1つのコンセプトも説明してください。…

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平井 嘉朗 (ひらい・よしろう)

1961年1月東京生まれ。関西学院大学経済学部卒業後、1984年4月に株式会社イトーキ入社、関西支社に営業として配属。1995年から同社イトーキ労働組合専従、1998年から3年間、同労働組合本部執行委員長を務める。2002年に関西法人販売課長、2009年に人事部長、2012年に当社営業戦略統括部長を歴任。そして、2015年から当社代表取締役社長に就任し、現在に至る。高校・大学時代は野球部で投手として活躍。趣味はゴルフ。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」

【T】

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