実例で学ぶ!ドラッカーで苦境を跳ね返せ(第35回)

未来のコスト編 数字の「根拠」が人を動かす

2018.10.10

クリップについて

 実例からドラッカーのマネジメントを学ぶ連載。佐賀県で学習塾を運営するNES(ネス)の後編を紹介します。「明日の自分に期待する」組織づくりが功を奏し、事業が軌道に乗った後、マーケットに目を向けた南里社長は自社が抱える未来の危機に気付きました。人口が減少傾向にある郷里のマーケットで生き残りをかけ、組織をけん引する方法とは何か?数字を生かした組織運営のコツに迫ります。

 「『利益』が会計上の幻影にすぎないことは、いくら強調しても強調しすぎることがない。……中略……利益なるものは存在しない。存在するものは、事業継続のための繰り延べされたコストにすぎない」 (『[新訳] 乱気流時代の経営』)

 利益を売上高と経費の差額とする考え方を、ドラッカー教授は否定した。さらに利益には、次の3つの役割があると指摘している。

(1)事業活動の有効性と健全性を測定する。
(2)陳腐化、更新、リスク、不確実性をカバーする。
(3)事業のイノベーションと拡大に必要な資金調達を確実にする。

 2番目と3番目の役割は、利益とは未来のためにあることを示す。その意味で、利益の蓄積である内部留保は、組織の未来を支える燃料タンクだ。

 1番目の役割は、燃料の使い方に対する良しあしの問題だ。有効性とは、自社の事業が顧客の支持をどの程度得ているか。健全性とは、事業に投下する資源配分が妥当であるかを問うものだ。

 NES(ネス)の南里社長は、人口減少という未来のリスクを見越して、「今、必要な利益」をはじいた。このように利益を結果ではなく、手段として捉える視点は重要だ。

 「より大きな利益のために」という論法では、人は動かせない。あるいは誤った方向に導く。人が心から納得して動くのは、「より良い未来のため」の構想があるときだ。
(ドラッカー学会理事=佐藤 等)

ドラッカーに学んだ先輩企業(19) NES(ネス) 後編

NESの南里社長。2005年、20代半ばで英語塾を立ち上げた

 自社のマーケットは3年で約2割縮小する――。パソコンの前で表を凝視しながら愕然(がくぜん)とした。

 NES(佐賀県多久市)の南里洋一郎社長が、郷里の多久市に学習塾を開いたのは2005年。それから7年ほどかけて、生徒数を約170人に増やした頃のことだ。

 既に地元中学の生徒の25%ほどが自分たちの教室に通っていて、「この場所でこれ以上のシェアアップは難しい」と感じていた。そんなとき、ドラッカーの『マネジメント』を読み、人口の変化に関心を持った。本には次のような言葉が並んでいた。

 「市場動向のうち最も重要なものが、人口構造の変化である」

 「人口構造だけが、未来に関して唯一の予測可能な事象だ」

 多久市のホームページには、年齢別の人口のデータがあった。3年後に中学に進学し、自社の潜在顧客になるのは、今、小学4~6年生の子どもたち。そんな具合に計算してみると、3年で市内の中学生の人数が約2割減少し、市場が急激に縮小する時期が間近に迫っていると分かった。

「未来の危機」を社員にデータで示す
社員4人の時期に経営方針を発表したプレゼン資料。地元の多久市の年齢別人口をグラフ化することで、数年後に顧客となる中学生が激減する事実を提示。新規出店の必要性を強く訴えた

未来の人口を自力で計算

 近隣の他の市町村についても同様に調べたが、多久の市場の縮み方は際立っていた。県庁のある佐賀市も中学生は減るが、多久ほど急でない。福岡市のベッドタウンとして発展する鳥栖市は、横ばいか増加傾向。佐賀や鳥栖は中学生の絶対数も多久よりずっと多く、これらの地域に2つ目の教室を出すアイデアも頭をよぎった。

 だが、市場規模が大きいだけに大手との競合が激しい。そこで目を付けたのが、すぐ隣の小城(おぎ)市だ。中学生の人口はほぼ横ばいの見込みで、めぼしい大手はいない。何より、NESの教室の評判を口コミで聞きつけ、約20分かけて通ってきている生徒が既にいた。

 南里社長は「3年後に小城に進出する」と、心に決めた。そのために今、やるべきことは何か。

 1つには幹部クラスの人材を育てなければならない。そこで南里社長が担っていた教室運営の仕事を社員に委ね、教室長に任命した。さらに翌年、その次の教室長候補を選抜し、教育を始めた。この計画を実行するときに役立ったのが、ドラッカーに学んだミッションを軸としたマネジメントだった。

 ちょうどこの頃、社員と議論しながら、「自社にとっての成果は、生徒の成績アップではない。生徒が目標に向けて頑張ることを通じ、明日の自分を楽しみに思えるようになることだ」と、定義した。このような目的の明確化が社員の主体的な行動を促し、人材教育に手応えを感じ始めていた。次の教室長の育成は比較的スムーズに進んだ。

 しかし、新しい教室の立ち上げには、もう1つ欠かせないものがあった。資金だ。ドラッカーの言葉にまたハッとさせられた。

 「利益とは、未来の費用」(『マネジメント』)。

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佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー[事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

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