日が照りつける中、冷たい缶コーヒーで喉を潤すシーンが多くなる季節になりました。世界で初めて缶コーヒーを開発したといわれているのが、UCC上島珈琲。同社の缶コーヒーは1969年の発売以来、人々に愛され続けるロングセラー商品です。
UCCの歴史は、創業者の上島忠雄が1933年、神戸にジャムやバターなどの輸入食材を扱う個人商店を開業したことに始まります。神戸は今もハイカラな街ですが、貿易港である神戸には西洋文化があふれ、喫茶店ではコーヒーが出されていました。そうした喫茶店でコーヒーの魅力に取りつかれた忠雄は、コーヒー豆の焙煎(ばいせん)卸業を始めます。
事業を順調に発展させていった忠雄は、戦後の1951年に商店を上島珈琲株式会社に改組。現在にまで続くUCCブランドをつくります。UCCは、UESHIMA COFFEE COMPANY(ウエシマ・コーヒー・カンパニー)の頭文字を取ったものです。忠雄は全国に上島珈琲の販売拠点を整備し、コーヒー業界をけん引する存在となっていきました。
そんな中で生まれたのが、缶コーヒーです。
駅の売店で味わった心残りがきっかけ
あるとき、全国を飛び回っていた忠雄は、駅の売店で瓶入りのコーヒー牛乳を買いました。しかし、一口付けたところで列車の発車ベルが鳴ってしまいます。当時、飲み物の瓶は売店に返却するのが決まり。コーヒー牛乳はまだ大半が残っていましたが、忠雄は急いで売店に瓶を戻し、列車に飛び乗ります。
列車には間に合いましたが、気になるのが飲み残したコーヒー牛乳のことです。「手軽に持ち運べるコーヒーが作れないものだろうか……。そうだ、瓶ではなく缶入りにすればいいんだ」。こう思いついた忠雄は、缶コーヒーの開発プロジェクトを立ち上げたのです。
開発過程ではさまざまな問題が生じました。例えば、コーヒーを缶に入れるとコーヒーの成分と缶が化学反応を起こし、コーヒーが黒く変色してしまったのです。その解決策として、缶の内壁に特殊なコーティングを施しました。こうした幾多の苦難を乗り越えてついに思い描いた缶コーヒーが完成。1969年4月に発売しました。
しかし、社を挙げて営業スタッフがキヨスクなどに営業をかけますが、売れ行きは思わしくありません。営業スタッフ自身が、キヨスクで「UCCコーヒー ミルク入りください」と商品名を口に出して買ったり、電車に持ち込んで飲んだりと、地道な努力をしますが、なかなか認知度が上がりませんでした。
そこで目を付けたのが、翌1970年に大阪で開催されることになっていた「日本万国博覧会」です。
売れないものを売る工夫… 続きを読む
執筆=山本 貴也
出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。
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