パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介する第2回は、相手に話を聞く気にさせるための心得です。感情によって相手の話を聞くかどうかは変わってしまうことを理解していないと、いくら話しかけても無駄になってしまいます。
部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(2)
反感、好感、倦怠(けんたい)というような感情によって、話を聞くかどうかが決まる
会議や説明会などで一生懸命説明をしているのに、1人2人居眠りしている人がいると、つくづくガッカリするものです。大学の教授会でも企業の説明会でも、こんな光景を何度見たことでしょうか。スピーカーの意気消沈を招く聞き手の居眠りですが、実は聞き手側にも言い分があります。「こんなに面白くない話を聞き続けるのは、なかなかつらい」という理由です。
聞き手のシビアな反応は、テレビで選挙の政見放送などが放映されるときに、一番分かりやすいものです。候補者が大きな身ぶり手ぶりとよく通る声で、聞き手にニーズのあることを話しているときには、視聴者はトイレに立たずに聞いています。しかし、聞いても何の意味もないと思ったり、くぐもった声だったり、つまらなかったり、無表情な候補者だと思ったりすればちゅうちょなく席を立ち、お茶を入れに行き、チャンネルを変えるでしょう。視聴者には、テレビの人物の話を聞かない権利があるからです。
部下に話をするときも同じです。たとえ1対1で話すときでも、相対している部下には上司の言葉を耳に入れない権利があるのです。「それは立場上けしからん!」とどんなに怒っても、部下が上司の目を見ながら心の中では上司の言葉をスルーしていたら、何の意味もないでしょう。
話を聞かないのは、どのような場合でしょうか。まず、相手がニーズや興味、関心がない話は耳に入らないことが多いと理解しましょう。ですから、相手が興味を持つ話題から始めるのも1つの方法です。さらに、この話が相手のメリットになる内容だと伝える、あるいは聞かなかった場合のデメリットを明示する手もあります。
絶対服従的に上司の話を聞くとは限らない… 続きを読む
執筆=佐藤 綾子
パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。
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