パフォーマンス心理学の最新の知見から、部下をやる気にする方法を紹介する連載。部下に対して効果的にメッセージを伝える方法を紹介する第12回は、男女で褒め方を変えるテクニックです。男女には価値観に違いがあるケースが少なくないので、褒めるツボも異なっています。それを把握してないと、部下をやる気にさせることはできません。
部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(12)
相手の価値観に配慮して褒め方を工夫しよう
男女で自己表現の仕方に性差(性別的な差異のこと)があることは本連載第9回でお伝えしました。性差があるということは、元はといえば価値観に性差があり、育ち方に性差があるからです。
そこで気を付けておきたいのは、男性上司が女性部下を褒めるとき、あるいは逆に女性上司が男性部下を褒めるときの問題です。例えば、実際に私が目にした場面ですが、「おや、今日は髪がショートになったね。なかなか似合うよ」と男性上司が女性部下を褒めたときに、「あら、元から短かったです」と言われ、男性上司はガッカリ。女性は外見を褒められるのがよいだろうと男性上司が考え外見を褒めたら、意外にもそれが的外れだったというサマにならない例ですが、実際にはよくあります。
女性が生きていくときの価値観を何に置くと考えているか。逆に、男性が生きていくときの価値観を何に置くと考えているのか。そこを厳密に理解していないと、褒めたつもりでもちっとも相手を喜ばせていないどころか、「何だったんですか」と軽蔑されかねません。
男性部下は「実力」、女性部下は「美しさ」
『エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き』(キャサリン・ハキム著・共同通信社)という本をご存じでしょうか。パッと「エロス」というカタカナを思い出し、性愛のことだと決め付けてしまっては困ります。ここでいうエロティック・キャピタルとは、金銭の資本、あるいは人脈の資本と同じように、男も女も自分のそれぞれの性別の中で持っている魅力のことです。昔風の言い方をすれば、「男は男らしく、女は女らしく」ですが、その言葉自体が今ややこしい状況になっているので、1つだけ原則をお伝えしましょう。
男性は自分の収入、権力、業績、実力、才能を褒められたときに、それが自分のエロティック・キャピタルであるので、とてもうれしく感じます。
では、女性のほうはどうなのか。これは逆の研究データがアメリカにあります。詳しくは『美貌格差 生まれつき不平等の経済学』(ダニエル・S・ハマーメッシュ著・東洋経済新報社)に書かれています。美しい女性ほど就職のチャンス、転職のチャンス、そして成功している男性と結婚するチャンスが多いという、3つの勝利を得ているというデータです。
一般的に女性にとっての魅力とされやすいのは、美しさのようです。日本の会社で女性全員がそんなことをいちいち考えて行動していることはないでしょう。でも心のどこかに「女性の実力は美しさよ」と感じている人が多いことも事実でしょう。
褒めるときにはここが肝心です。原則、男性部下は「実力」を褒め、女性部下は「美しさ」を褒める。反発する女性も当然いますが、意外にもこれは多くの女性に効果があります。しかも、これは決して顔の美しさだけではありません。美しい立ち居振る舞いやしぐさ、細やかな心配りなどを褒められるとうれしいものです。ただし、男性上司が女性の顔や身体の一カ所を長時間見つめて褒めると、セクハラ条項に引っかかることもあるので用心しましょう。
部下の感情にまで届くメッセージ発信の技術(12)
◆ 男性部下、女性部下それぞれに褒められるとうれしいポイントが違います。
◆ 相手がどんな価値観を持っているかによって褒め言葉に配慮しましょう。うれしさも倍増します
執筆=佐藤 綾子
パフォーマンス心理学博士。1969年信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科修士課程修了。上智大学大学院博士後期課程満期修了。日本大学藝術学部教授を経て、2017年よりハリウッド大学院大学教授。国際パフォーマンス研究所代表、(一社)パフォーマンス教育協会理事長、「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰。自己表現研究の第一人者として、首相経験者を含む54名の国会議員や累計4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントとして信頼あり。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は191冊、累計321万部。
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